FATF 仮想資産サービス業者(VASP)に係るRBAのガイダンスを発行

FATFが、2021年10月28日に、仮想資産サービス業者(VASP)に係るリスクベースアプローチ(RBA)のガイダンスの改訂を公表しています。

改訂の目的は、①VA/VASPの定義を明確化すること、②ステーブルコインへの適用関係を明確化すること、③P2P取引に係るリスクと対応策について追加のガイダンスを提供すること、④VASPの登録についての追加のガイダンスを提供すること、⑤トラベルルールについての追加のガイダンスを提供すること、⑥VASP監督当局間の情報共有・協力に係る原則を含めること、とされます(同ガイダンスのExecutive Summaryの末尾参照)。

同ガイダンスの第1章は、導入部分(Introduction)であり、このガイダンスの背景、目的、射程等について説明しています。

第2章では、VASPの定義について説明しています。基本的には、FATF勧告どおりなのですが、DeFIについて注目される記載がされています。

FATF勧告のVASPの定義について、単なる技術・プログラムの提供は、VASPにあたらないと解されていますが、DeFI(分散型金融)の統治システムを採用している仮想資産であっても、DeFIのアレンジメントについて、一定のコントロール又は十分な影響力を有する者は、VASPにあたるとの解釈が示されました(同ガイドライン67項)。

第3章では、各国の当局との関係でFATF勧告がVASPにどのように適用されるかを説明しています。リスクベースアプローチにしたがい、仮想資産にML/TF/PFリスクを評価し、特定事業者にもリスクの識別(洗い出し)、評価・分析、低減策を取るよう義務付けることを求めています(FATF勧告1)。

特に、P2P取引の透明性を高めるための措置の検討を各国政府に求めています(106項)。たとえば、以下のような措置です。

(a)VASPと非VASPとの間の多額の取引の報告義務制度(現金取引報告又は国外送金調書のようなシステム)
(b) Un-Hosted Wallet Transaction(顧客が自己ホスティングする仮想資産に係る取引)に焦点をあてた、継続的な、強化された、リスクベースの監視
(c) RBAとの関係で、リスクが許容範囲内のアドレスに対しての取引のみを実施すること
(d)VASPに対して、[顧客以外との関係では] VASPその他の特定事業者との間の取引のみを認めること
(e) 特定事業者以外の者と取引をするVASPには、追加の義務を課すこと(強化された顧客調査義務、強化された記録作成・保存義務)
(f) P2P取引を行う顧客との関係で適用すべきガイダンス
(g)P2P取引のリスクを周知するようなガイダンス等を発行すること。

また、FATF勧告のほとんどの規定がVASPとの関係でも適用される旨を明記しています。

例えば、同ガイダンスでは、勧告3のマネロン罪との関係では、仮想資産がカバーされるべきことを規定し(113項)、勧告4のはく奪(追徴・没収)との関係で、仮想資産がカバーされることを規定しています(114項)。なお、日本の刑法に基づく没収では、物のみが没収の対象です。(仮想資産はカバーされていないと解されます。)

VASPの登録制度の在り方や登録要件については、同ガイダンスの123項以下に記載されています。例えば、マネロンプログラム[体制]整備義務、実質的支配者が犯罪組織でないこと等を登録要件とすべき旨(131項、133項)、代表取締役が日本に居住していることを要件とすることもありうべき旨(134)等が規定されています。

特に注目されるのは、トラベルルール(FATF勧告16)で、この点については、ガイダンスの59頁で、FATF勧告16と解釈ノートがどのように読み替えられて適用されるのかについて解説されています。

なお、ステーブルコインについては、通貨連動建てのため、VA(仮想資産)に該当しないと基本的に解されますが、VAと共通する部分が多く、マネロンに使われる可能性があり、特に、VAとステーブルコインが交換可能とされることで、VAによるマネロンリスクを高める側面があります。そこで、VASP及び特定事業者は、ステーブルコインに係る[提携等の]ビジネスのローンチ前に、そのマネロンリスクを評価しなければならないものとされています(36項のBox1参照)。
※ステーブルコインの規制については、FATFの報告書と、FASBの報告書があります。

第4章では、VASP等の特定事業者に対して、FATF勧告がどのように仮想資産に適用されるかを説明しています。

VASPとの関係では、一見取引に係る顧客調査措置の敷居値は、1000ドル/ユーロとなる旨が記載されています(266項)。また、勧告16との関係では、全ての仮想資産の[移転]取引は、クロスボーダー送金(wire transfer)と扱われる旨が記載されています(266項)。

VASPに係るコルレス取引関係の勧告(勧告13)の適用については、一回限りの取引は含まないが、継続的に取引をしていると評価されるような場合には、勧告13が適用されるとしています。

トラベルルールの読み方については、第3章で規定済みであるが、第4章でも、いくつかの点が記載されています。たとえば、勧告16が技術中立的であり、対応法として様々な技術的手段が考えられる旨が記載されています(283項、284項)。また、「FATF Guidance on Correspondent Banking Services」をも考慮すべき旨が記載されています(288項)。

P2Pの取引に係るリスクとの関係では、unhosted wallet(顧客の自己ホスティングのウォレット)との間での仮想資産のバリューの移転を伴う取引については、オリジネーター(送信人)/ベネフィシャリー(受取人)の情報を取得し、かつ、そのリスク低減策を講じるべき旨が記載されています(295項から297項)。例えば、P2Pリスクを考慮に入れた強化されたリスク低減策の導入や、信頼できると判断されるunhosted walletとの間でしか取引をしないこと等が考えられる対策としてあげられています。

第5章では、各国の対応例等が記載されています。

第6章では、VASP監督当局間の情報交換について記載されています。

別紙Aは、FATF勧告、解釈ノート及び定義集のうち仮想資産に係る部分の抜粋です。また、別紙Bは、2021年11月の改訂部分です(28項)。