刑事訴訟法判例百選―捜査

 

1 岐阜呼気検査事件 最高裁昭和51年3月16日決定 (判例教材2頁)

 原判決の事実認定のもとにおいて法律上問題となるのは、出入口の方へ向った被告人の左斜め前に立ち、両手でその手首を掴んだ加藤巡査の行為が、任意捜査において許容されるものかどうか、である。

 捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。

 これを本件についてみると、加藤巡査の前記行為は、呼気検査に応じるよう被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもって性質上当然に逮捕その他の強制手段にあたるものと判断することはできない

また、右の行為は、酒酔い運転の罪の疑いが濃厚な被告人をその同意を得て警察署に任意同行して、被告人の父を呼び呼気検査に応じるよう説得をつづけるうちに、被告人の母が警察署に来ればこれに応じる旨を述べたのでその連絡を被告人の父に依頼して母の来署を待っていたところ、被告人が急に退室しようとしたため、さらに説得のためにとられた抑制の措置であって、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもって捜査活動として許容される範囲を超えた不相当な行為ということはできず、公務の適法性を否定することができない。したがって、原判決が、右の行為を含めて加藤巡査の公務の適法性を肯定し、被告人につき公務執行妨害罪の成立を認めたのは、正当というべきである。

 

コメント(1)本判決は、@強制処分の意義について言及した点、A任意捜査の限界について言及した点、B両手で右手首をつかむ行為が強制処分にあたらず、また右事案の下では適法であるという事例判断を示している点、が注目に値する。

 

(2)まず、本判決では、強制処分の定義を最高裁がのべている点に意義がある。最高裁は、「特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」といっており、これは強制処分法定主義が妥当するのが相当といえるような処分ということをいっている。

このようなあいまいな定義づけを最高裁がしているのは、強制処分にあたるかは、相手方の意思を抑圧する程度及び、相手方の権利侵害の重大性の程度の相関関係により決まるものであり、一義的な定義づけは難しいと考えたせいではないかと推測される。

 

(3)強制処分の規範はどうすればよいか

.有形力の行使の事例・実質的逮捕にあたるかの事例・実質的捜索にあたるかの事例 → 強制処分とは、意思を抑圧し、個人の法益に制約を加えて捜査目的を強制的に実現する行為など、強制処分法定主義に服せしめるのが相当な行為をいう。

.写真撮影・秘密録音・盗聴の事例 →強制処分とは、@相手方の意思に反し、かつA重要な法益を侵害する行為(など、強制処分法定主義に服せしめるのが相当な行為)をいう。

        ※イの事例では、相手方の意思を抑圧するにまでいたるということはほとんど考えられない。そこで、意思に反してという言葉を用い、その代わりに、法益侵害については重要であることを要求している。このように規範を使い分けるのが判例の考え方にも近く、またあてはめもしやすい。

 

(4)なお、行政警察活動では、刑訴法197条1項但書きの強制処分法定主義の規定は適用されないと考えられるので、法律による行政の原理の話となると思われる。(令状主義が妥当するかは憲法35条の問題‐川崎民商事件参照)

 

(5)強制処分(ないし法律による行政の原理)の問題をクリアしても、それだけでは足りない。行政警察活動における有形力の行使の限界については、警察比例の原則が問題となるし、一方、司法警察活動においては、捜査比例の原則が問題となるからである。

行政警察活動と司法警察活動の区別は、犯罪があると思料する段階に至っているかということが、一応の区別基準となろう。しかし、実際にはその区別は、困難な場合が多い。

とりあえず職務質問とあったら行政警察活動と考え、警察比例の原則としておけばよい。一方、警察署に任意同行とあれば<本件もそう>司法警察活動と考え、捜査比例の原則としておけばよい。

本件は、警察署への任意同行であり、犯罪があると思料する段階に至っているから、捜査比例の原則が問題となる。

 

(6)有形力の行使を伴う任意捜査の限界について本判決は、「ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」と述べている。このことは、有形力を伴うと否とに関わらず任意捜査一般にいえることである。

なお、この判例は必要性・緊急性などの要素をあげているが、要は「さまざまな事情を考慮して相当(と認められる限度)か」ということであり、相当性の要件と呼ばれる。

 

2 職務質問のための停止(6時間半) 会津若松採尿事件 最高裁平成6年9月16日決定(=百選31) 教156頁

判旨:「…被告人の尿の鑑定書の証拠能力について検討する。

 1 本件における強制採尿手続…の適法性については、それに先行する右一連の手続の違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断する必要がある(最高裁昭和61年4月25日第2小法廷判決参照)。

 

 2 そこで、まず、被告人に対する職務質問及びその現場への留め置きという一連の手続の違法の有無についてみる。

 (一) 職務質問を開始した当時、被告人には覚せい剤使用の嫌疑があったほか、幻覚の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、前記の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるのみならず、道路交通法67条3項に基づき交通の危険を防止するため採った必要な応急の措置に当たるということができる。

 (二) これに対し、その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が<キーを返還せず>被告人による運転を阻止し、約6時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。

 (三) しかし、@右職務質問の過程においては、警察官が行使した有形力は、エンジンキーを取り上げてこれを返還せず、あるいは、エンジンキーを持った被告人が車に乗り込むのを阻止した程度であって、さほど強いものでなく、被告人に運転させないため必要最小限度の範囲にとどまるものといえる。Aまた、…任意捜査の面だけでなく、交通危険の防止という交通警察の面からも、被告人の運転を阻止する必要性が高かったというべきである。Bしかも、…警察官に当初から違法な留め置きをする意図があったものとは認められない。これら諸般の事情を総合してみると、前記のとおり、警察官が、早期に令状を請求することなく長時間にわたり被告人を本件現場に留め置いた措置は違法であるといわざるを得ないが、その違法の程度は、いまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえない。

<後半-採尿手続きの適法性-See百選30>

 

コメント(1)職務質問一般の適法性判断基準

 職務質問の限界については、任意捜査の限界と同じに考えてよい。つまり、相当性の要件により判断することになる。

 相手方の意思に反していたとしても、必要性・緊急性が高度であれば、適法となる点に注意する必要がある。行政警察活動は任意の同意を得て行われるのが原則だが、警職法2条1項の「停止させて」との文言は、相手方の意思に反して行う場合をも想定した規定と解されるからである。

(2)本件の適法性

エンジンキーを取り上げた行為は、相当性の要件を満たし適法である。一方、その後(キーを返還せず)6時間半もとどめおいた行為は相当とはいえず違法である。もっとも、重大な違法ではない。

(3)注意点

・エンジンキーを取り上げているが、これは停止させるために一時取り上げたというものにすぎず、差押ではない。

 

類似:東京高判平成8年9月3日 4時間半のとどめおきを適法とした事例(辰巳判例集14-3)

本件においては、既に述べたとおり@道路運送車両法違反についての嫌疑が濃厚であり、任意同行等の必要性及び緊急性が高かったと認められることに加え、A留め置きが長引くこととなったのは、原判決が指摘するように本件事案のもとでは現行犯逮捕も可能であったところ、警察官がこの種事犯の通常の事件処理の方法に従い任意捜査を選択したことから、車内に閉じ篭もるなどの被告人の頑な拒否の態度に遇って結果的に説得に時間を要したためであること、B無車検車走行の事実が判明し任意同行のための説得を開始した時点から起算すれば、被告人が任意同行に応じるまでの留め置きの時間は3時間余にとどまること、さらに、C前述のとおり無車検車走行を防止するため被告人を降車させレッカー移動に応じるよう説得する必要が強く認められたことなどの事情を総合考慮すると、任意同行のための説得を開始した時点以降の留め置き時間、さらには職務質問を開始した時点以降の留め置き時間を問題とするとしても、それらは、なお許容される時間的限度内にあったものというべきである。

 

3 集会参加者に対する検問 大阪高判平成2年2月6日

事案:所持品検査を目的とする検問を実施するため公園の出入り口付近に阻止線を張って検問隊形を作った。

検察官の主張:@刑職法2条1項の要件を満たしている、Aデモ行進の許可条件具備の点検などの規制は、警察法2条1項に定められた警察の責務を根拠としてこれをなし得るのであって、必ずしも警職法2条1項の定める要件に厳格に拘束されないと解される」。したがって本件検問の適否については、警職法2条1項及び警察法2条1項の両者を根拠とし、通常の職務質問よりも緩やかな要件に従って判断することができる

@についての裁判所の判断 職務質問に付随して行う所持品検査が一義的なものでなく、職務質問に伴い、(1)所持品を外部から観察する行為、(2)所持品につき質問する行為、(3)所持品の任意の提示を求め、掲示された所持品を検査する行為、(4)衣服、携帯品の外側から手を触れて所持品の検査をする行為、(5)衣服に手を差し入れたり、携帯品を開披するなどして所持品の検査をする行為など、相手方の協力さえ必要でないものから、相手方の任意の協力ないし承諾が必要であるもの、相手方の承諾はないものの強制にわたらない程度に有形力の行使を伴うもの及び強制的に行うものまで、段階的に程度の差があることは所論のいうとおりであるが、本件では、前示のとおり釜日労の約20名の徒歩グループが入口に近づいた時点で通路いっぱいに阻止線を張って検問隊形を作り、釜日労組合員はこれに抗議し、任意の所持品検査に応じる気配は一切示しておらず、このことは警備の警察官にも十分認識できたはずであるのに、なお阻止線を開こうとせず、所持品検査を実施しようとしたのであるから、それは、相手方の承諾のない所持品検査に当たるものと認められる。

そして、そのような所持品検査が許容されるためには、最高裁昭和53年6月20日<米子銀行強盗事件>判決の示した要件を満たすことが必要であると当裁判所も考える。そこで、本件において、その要件である所持品検査の必要性、緊急性が存したかどうかについて判断するに、本件においては、その必要性、緊急性が認められないとの原判決の判断及びその根拠づけは、前認定事実に照らして、当裁判所もこれを首肯することができる。

Aについての裁判所の判断所論にかんがみ検討するに、「警察官がその責務を遂行するに当たり、相手方の意思に反しない任意手段を用いるについては、必ずしもその権限を定めた特別の法律の規定を要せず、警察の責務の範囲を定めた警察法2条1項の規定を根拠として、これを行い得る場合があるとしても(最高裁昭和55年9月22日<宮崎交通検問>決定参照)、本件で行われた相手方の承諾のない所持品検査のように、相手方の意思に反して、国民の権利を制限し、これに義務を課す場合には、その権限を定めた法律の規定が必要であり、警察法2条1項の規定によってこれを根拠づけることはできないと解せられる。」そうだとすると、本件所持品検査の適法性の要件を、もっぱら警職法2条1項に基づいて判断し、所論のいうように警察法2条1項を根拠としてその要件をより緩和することを考慮しなかった原判決の判断は正当であって、原判決に所論のいう法令の解釈適用の誤りはない。

 

コメント(1)本件では、犯罪があると思料する段階には至っておらず、法律による行政の原理の原理が問題となる。

(2)そして、高裁は法律による行政の原理について興味深い判断を示している。

そこで、本件高裁判決及び宮崎交通検問最高裁判決を参考にして、他の事例において法律による行政の原理がどのような場合に満たされるのかを考えてみたい。

 

)意思に反する所持品検査(本件判決があげる事例)― 警察法2条1項を根拠にしては行い得ない。警職法2条1項を根拠にして行いうる場合がある(但し相当性の要件が必要)。

)任意の同意を求める形で行われる一斉の交通検問― 警察法2条1項を根拠に行いうる<宮崎交通検問事件最高裁判決>。

)任意の同意を求める形で行われる任意処分(任意の同意を求める形で行われる一斉の所持品検査を含む)― 警察法2条1項を根拠に行いうる<本判決傍論>

)任意の同意を求める形で行われる警戒検問― 警察法2条1項を根拠に行いうる<私見・Ogi助教授も大いに同意>。

 

本判決が、意思に反する所持品検査が警察法2条1項によっては基礎付けられないと判断したのは、「意思に反する」ために、法益侵害の程度が大きく、警察法2条1項をさらに具体化した法規範が必要と考えたせいだろう。

その背後には、「人権侵害の程度が大きければ大きい程、より具体的な法律による規制が必要」という考え方があるのではないか。

 

(4)本件の事案について

本件では、裁判所は、「相当性の要件」を満たしていなかったことを指摘しているが、不審事由がなく警職法2条1項の要件を満たしていない者に対して一斉に行われている点も、問題である(私見)。

 

4 所持品検査 最判昭和53年6月20日 米子銀行強盗事件

(1)ボーリングバッグを開披した行為の適法性

所論のうち憲法31条、35条1項違反をいう点は、近藤有司の明示の意思に反してボーリングバッグを開披した赤沢巡査長の行為を職務質問附髄行為として適法であるとした原判決の判断は、警察官職務執行法(以下「警職法」という。)2条1項の解釈を誤り、ひいて憲法35条1項に違反し、違法収集証拠を本件の証拠とした点において憲法31条に違反する、というのである。

一 警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であって、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もっとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。

 二 これを本件についてみると、所論の赤沢巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかった近藤及び被告人の両名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあったのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確かめる緊急の必要上されたものであって、所持品検査の緊急性、必要性が強かった反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから、これを警職法2条1項の職務質問に付随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。

 よって、所論違憲の主張は、前提を欠く。

 

(2)アタッシュケースをこじあけた行為の適法性とその証拠能力

弁護人の主張は、アタッシュケースをこじ開けた前示赤沢巡査長の行為を警職法に違反するものと認めながら、アタッシュケース及び在中の帯封(紙幣)の証拠能力を認めた原判決の判断は、上記憲法の規定に違反する、というのである。

 しかし、前記ボーリングバッグの適法な開披によりすでに近藤有司を緊急逮捕することができるだけの要件が整い、<かつ、アタッシュケースの中味の有無や中味の如何にかかわりなく、逮捕必至の状況に立ち至つていたのであり―高裁判決>、しかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手続が行われている本件においては、所論アタッシュケースをこじ開けた警察官の行為は、近藤を逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で時間的に接着してされた捜索手続と同一視しうるものであるから、アタッシュケース及び在中していた帯封の証拠能力はこれを排除すべきものとは認められず、これらを採証した第一審判決に違憲、違法はないとした原判決の判断は正当である。

 

コメント

所持品検査の根拠:警職法2条1項(∵所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから)

所持品検査の法的性質:職務質問に付随して行われるものであり、任意処分。

捜索にわたらない限り、強制にわたらない限り:@(捜索に類似して包括的に綿密に目的物の探索行為が行われるのか・機密性は高かったかなど)プライバシー侵害の程度<捜索にわたらない限り>、A相手方の意思に反する程度<強制にわたらない限り>、の二要素を考慮して、強制処分にあたるかを判断する。あてはめでは、@の要素が、特に重要。Aの要素は、「合理的意思に反する」と軽く認定しておけば足りる。

チャックを開けた行為は強制処分か:本件で、チャックをあけ一瞥した行為については、重要な法益侵害はないことを理由に強制処分であることが否定されている。任意処分の限界:相当性の要件で判断する。

チャックを開けた行為は任意処分として適法か:銀行強盗という重大犯罪、濃厚な嫌疑、凶器を所持しているおそれ、一瞥したにすぎない。よって社会通念上相当といえる範囲内といえる。適法。

アタッシュケースをこじ開けた行為の適法性:鍵がかかっており、機密性の高い状態にあったアタッシュケースを相手方の意思に反してこじあけた行為は、法益侵害の程度が高く、強制処分にあたる。もっとも、220条の捜索と同視できるので適法である。

 

5 自動車検問 宮崎交通検問事件 最高裁昭和55年9月22日決定

事案:交通関係違反の取締を目的とする交通検問の事案

判旨:本件自動車検問の適否について判断する。警察法2条1項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでないことも同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨にかんがみ明らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。原判決の是認する第1審判決の認定事実によると、本件自動車検問は、右に延べた範囲を越えない方法と態様によって実施されており、これを適法であるとした原判断は正当である。

 

解説:1、検問には3種類ある。警戒検問(犯罪一般の予防、検挙を目的とする-タクシー強盗の予防を目的とした検問等-)、緊急配備検問(特定の犯罪発生後の犯人検挙、情報収集を目的とする)、交通検問(交通違反の予防、検挙を目的とする)の3種である。不審事由がある場合は、警職法2条1項で停止させうるので、不審事由がない場合が問題である。2、一斉検問については、@警職法2条1項説、A警察法2条1項説(「交通の取締り」は充分に具体的である)、B憲法31条説(田宮)、C違法説がある。@については、不審事由がないのだから、不当であろう(職務質問の要件を確認するための自動車の停止を求める権限も2条1項により与えられるなどとの苦しい反論がされる-しかしこのような解釈は警職法2条1項の要件をゆるめるものであり、不当である)。Aについては、組織法であり、作用法ではないのだから、具体的な権限の根拠とするのは不当と批判される。3、本判決は、「警察法2条1項…に照らすと」、としているので、A説に立つものと思われる。4、そして警察比例の原則から、交通検問ができる場合を限定している。

 

疑問:交通検問について、最高裁は、警察法2条1項をあげる。では、警戒検問について、「犯罪の予防、鎮圧」「その他公共の安全と秩序の維持」という警察法2条1項の規定からこれを基礎付けることができるのか?

Ogi回答:最高裁の立場でいけば、任意の同意を求める形でなされる警戒検問についても、警察法2条1項を援用することになろう。

本判決は、警察法2条1項の他に、@車を運転する者の当然の負担、A交通事故の状況等の事情もあげて本件では、一斉の交通検問を正当化している。警戒検問でこれらの事情が認められるのかは微妙であるが、犯人が車を利用して犯罪を行っているような場合には、@の要件を満たすと思われるし、近時の犯罪の検挙の困難の状況に鑑みれば、Aの状況に匹敵するような事情も認められるのではないか。

 

コメント:「@相手方の任意の協力を求める形で行われ、A相手方の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り」という要件は、警察法2条1項を根拠に行われる警察活動全般にあてはまる要件だろう。

一方、警職法2条1項を根拠にする場合には、かかる要件はかかってこず、相手方の意思に反する場合にも、適法となる場合がある。(もっとも、この場合には不審事由が必要)

 

6 任意同行と逮捕 富山地裁昭和54年7月26日決定 富山事件

(1)同行する際、被疑者に対する物理的な強制が加えられたと認められる資料はない。→同行は適法

(2)(取調室には立会人一名が配置され、休憩時などにも常時被疑者を看視しており、用便時を除いて被疑者が取調室から出ることはなく用便にも立会人が同行した)というような事実上の看視つきの長時間(朝7時半〜)の深夜にまで及ぶ取調べは、仮に被疑者から帰宅ないし退室について明示の申し出がなされなかったとしても、任意の取り調べであるとする他の特段の事情の認められない限り、任意の取調べとは認められないものというべきである。従って、本件においては、少なくとも夕食事である午後七時以降の取調は実質的には逮捕状によらない違法な逮捕であったというほかはない。

(3)本件においては…実質逮捕の時点から計算しても制限時間不遵守の問題は生じないけれども、約5時間にも及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義の違法は、それ自体重大な瑕疵であって、制限時間遵守によりその違法性が治癒されるものとは解されない。

 

解説:1、本件の任意同行は、刑訴法上の任意同行である。任意同行は、持ち時間の制限を免れるなどの機能も果たすことがあるため、実質的逮捕との限界が問題となる。2、任意とは、強制に対する概念であり、本人の意思によることを意味するが、必ずしも自発的に応じることを要せず、内心ではいやだと思いながらしぶしぶ同行する場合でも任意といえる場合がある(身体の束縛や強い心理的圧迫による身体の拘束がない限り、任意)。3、任意同行及びこれに引き続く任意取調が実質逮捕に至っているかの区別基準は、@同行を求めた時刻・場所(深夜・早朝は×<出勤のため出てきたところは○、本件も○>、遠い場所も×)、A同行の方法・態様(要件や行き先の告知は○、警察車両ではさみこむように乗車は×、逮捕状の用意あることの告知は×)、B被疑者の属性(年齢・性別等)、C同行の必要性(本件は贈収賄の容疑)、D同行後の取調の時間・場所・方法・看視状況(トイレにいく時まで監視しているのは×)、F被疑者の対応状況、G捜査官の主観的意図等である。4、実質逮捕にあたるとされた場合に、勾留請求が認められるかについては争いがある<16事件参照>。身柄拘束下の自白の証拠能力については、勾留請求の可否とは必ずしもパラレルでないことに留意する必要がある。

 

答案作成術(1)同行とその後の取調については、別々に検討するのがよい。(解説は一緒にしているが、話がこんがらがりよくない。)

(2)実質的逮捕<強制処分>にあたるかという判断任意捜査の限界をこえていないかという判断の二段階の審査を経ることになる。あてはめで二度同じようなことを書くことになるので、どちらの事実認定がより微妙かを考えて、より争いになりそうな方に重きをおき、そうでない方は軽く流して書く(百選1岐阜呼気検査判決は強制処分にあたるかについてうまく軽く流してかいているので参考になる)。

(3)あてはめでは、適法の方向に働く事実と違法の方向に働く事実の両方を必ずあげる。

 

実質的逮捕か- 強制処分(実質的逮捕)とは、相手方の意思を制圧して、強制的に身柄を拘束するような行為。意思に反する程度と、身柄の拘束の程度の相関関係によって決まる。本件では、トイレにまでついていって常時監視していたこと、及び夕食時には帰宅したいと考えるのが通常で被疑者の合理的意思に(強く)反するものと考えられたことから実質的逮捕にあたると認定された。実質的逮捕にあたるとされた他の例として飯山事件判決(パトカーで警察官にはさまれるように警察署に連行された事例)がある。

任意捜査の限界を超えるか- 社会通念上相当な範囲内といえるかどうかで判断する。本件では、実質的逮捕にあたるとされたため、問題とはならなかった。

 

7 宿泊を伴う取調 高輪グリーンマンション事件 最高裁昭59年2月29日決定(4泊5日-前に同棲していた女性を殺害)

(1)取調の適法性

1 右のような事実関係のもとにおいて、昭和52年6月7日に被告人を高輪警察署に任意同行して以降同月11日に至る間の被告人に対する取調べは、刑訴法198条に基づき、任意捜査としてなされたものと認められるところ、任意捜査においては、強制手段、すなわち、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」(最高裁昭和51年3月16日第3小法廷決定参照)を用いることが許されないことはいうまでもないが、任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、右のような強制手段によることができないというだけでなく、さらに、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容されるものと解すべきである。

2 これを本件についてみるに、まず、被告人に対する当初の任意同行については、捜査の進展状況からみて被告人に対する容疑が強まっており、事案の性質、重大性等にもかんがみると、その段階で直接被告人から事情を聴き弁解を徴する必要性があったことは明らかであり、任意同行の手段・方法等の点において相当性を欠くところがあったものとは認め難く、また、右任意同行に引き続くその後の被告人に対する取調べ自体については、その際に暴行、脅迫等被告人の供述の任意性に影響を及ぼすべき事跡があったものとは認め難い。

 しかし、被告人を4夜にわたり捜査官の手配した宿泊施設に宿泊させた上、前後五日間にわたって被疑者としての取調べを続行した点については、原判示のように、右の間被告人が単に「警察の庇護ないしはゆるやかな監視のもとに置かれていたものとみることができる」というような状況にあったにすぎないものといえるか、疑問の余地がある。

 すなわち、被告人を右のように宿泊させたことについては、被告人の住居たる野尻荘は高輪警察署からさほど遠くはなく、深夜であっても帰宅できない特段の事情も見当たらない上、第1日目の夜は、捜査官が同宿し被告人の挙動を直接監視し、第2日目以降も、捜査官らが前記ホテルに同宿こそしなかったもののその周辺に張り込んで被告人の動静を監視しており、高輪警察署との往復には、警察の自動車が使用され、捜査官が同乗して送り迎えがなされているほか、最初の3晩については警察において宿泊費用を支払っており、しかもこの間午前中から深夜に至るまでの長時間、連日にわたって本件についての追及、取調べが続けられたものであって、これらの諸事情に徴すると、被告人は、捜査官の意向にそうように、右のような宿泊を伴う連日にわたる長時間の取調べに応じざるを得ない状況に置かれていたものとみられる一面もあり、その期間も長く、任意取調べの方法として必ずしも妥当なものであったとはいい難い。

 しかしながら、他面、被告人は、右初日の宿泊については前記のような答申書を差し出しており、また、記録上、右の間に被告人が取調べや宿泊を拒否し、調べ室あるいは宿泊施設から退去し帰宅することを申し出たり、そのような行動に出た証跡はなく、捜査官らが、取調べを強行し、被告人の退去、帰宅を拒絶したり制止したというような事実も窺われないのであって、これらの諸事情を総合すると、右取調べにせよ宿泊にせよ、結局、被告人がその意思によりこれを容認し応じていたものと認められるのである。 

3 被告人に対する右のような取調べは、宿泊の点など任意捜査の方法として必ずしも妥当とはいい難いところがあるものの、被告人が任意に応じていたものと認められるばかりでなく、事案の性質上、速やかに被告人から詳細な事情及び弁解を聴取する必要性があったものと認められることなどの本件における具体的状況を総合すると、結局、社会通念上やむを得なかったものというべく、任意捜査として許容される限界を越えた違法なものであったとまでは断じ難いというべきである。

 

(2)伝聞証言につき異議なく証拠調べを終わった場合の証拠能力

渡部達郎警部は、第一審において、ポリグラフ検査の際、被告人に本件被害者の着用していたネグリジェの色等、本件の真犯人でなければ知り得ない事項についての言動があった旨証言した。右証言は伝聞ないし再伝聞を内容とするものであるが、右証言の際、被告人及び弁護人らは、その機会がありながら異議の申立てをすることなく、右証人に対する反対尋問をし、証人尋問を終えていることが認められる。このように、いわゆる伝聞ないし再伝聞証言について、異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があったものとしてその証拠能力を認めるのが相当である(最判28年5月2日参照)。

 

コメント(1)任意捜査の限界が問題となった事例。4泊もしておりかなり限界事例である。(2)伝聞証言につき、異議の申立てなく当該証人尋問が終了した場合には、「特段の事情がない限り、黙示の同意があったものとする」と判示した。

 

8 長時間の取調 平塚事件 最高裁平成元年7月4日決定 

事案午後11時〜翌日の午後9時半まで一睡もさせずに徹夜で取調。強盗致死被告事件。実際は強盗殺人だったよう。元同棲相手

ポイント4つの特殊事情

(1)進んで取調べを願う旨の承諾、(2)被告人の自白が客観的状況と照応せず、虚偽を含んでいると判断されたため、自白後も取調が継続されたのであること、<通常の場合は、自白後はすぐに逮捕されるのであり、自白後の取調継続は逮捕期間の潜脱のためと推認される>、(3)取調の拒否ないし帰宅の申し出はなかった、意識もはっきりしていた、(4)事件の性質・重大性

コメント:徹夜の取調は、原則として許されないとしつつ、上の4つの特殊事情を認め、任意捜査の限界を超えないと判断している。

 

9 写真撮影 京都府学連事件 最判昭和44年12月24日

(1)現に犯罪が行われ、もしくは行われて間がないと認められる場合であって、(2)しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつ(3)その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき

 

解説:1、まず、最高裁は、任意処分ととらえているようである。2、「犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)」と、写真撮影の根拠を警察法2条1項に求めるかのようにみえるのは不当。3、井上・田宮は、写真撮影は強制処分であるとする。4、本判例の射程については争いがある。本判旨は、写真撮影が許容される場合の一つの例示なのか、そうでないのかという点についてである。5、写真撮影が許される場合についてはせまく解すべきである。

 

答案作成術:強制処分とは、強制処分法定主義や令状主義に服するのが相当と考えられるような処分をいい、具体的には、@意思に反して、A処分の相手方の重要な法益を侵害する行為をいうものと考える。

本件の写真撮影は、公道でなされたものであり、プライバシー侵害の程度が低く、重要な法益を侵害する行為とはいえず、強制処分法定主義に服せしめるのが相当とはいえず、強制処分にはあたらない。

もっとも、任意捜査であるとはいっても、法益侵害の危険はあるのだから、捜査はその必要性にみあったものでなければならず(捜査比例の原則)、捜査の必要性、緊急性等さまざまな事情を考慮して、社会通念上相当といえる範囲でなされなければならない。本件では…

 

京都府学連の規範との関係197条に基づく任意捜査の限界は、どのような場合にも、社会通念上相当かどうかによって決まる、と考える(10事件コメント参照)。よって、京都府学連は、許される場合の一つを例示したものにすぎないと考えるべきである。

 

10 テレビカメラによる監視 東高判昭63年4月1日 山谷テレビカメラ監視事件

コメント(1)将来の捜査という点で、ふれられることが多い判決である。もっとも、過去の捜査としての側面も有していた事案であり、将来の捜査ということについてあつくふれるのは、あまり筋が良くない。事件がおきてから証拠収集活動をしていては間に合わない場合もあり、捜査活動は必ずしも、既に行われた犯罪についてのものである必要はないと考えるのが相当である、と簡単にふれればよい<三井は反対>。

(2)むしろ、京都府学連判決は、許される場合の一つの例示にすぎないと判断して府学連判決の射程をせばめた判決として着目されるべきであろう。

(3)なお、写真撮影だけを特別扱いするのは変であり、一般的な任意捜査の限界と同じように、社会通念上相当といえればそれで充分とする見解が近時有力である(三井ら編「新刑事手続きT」350頁参照)。賛成である。写真撮影の特殊性については、考慮すべき諸要素の一つとしてあげればそれで足りる。

(あてはめでの注意:写真撮影の対象となる人物について犯罪の嫌疑が全くないような場合には、他の事情がどのようなものであったとしても、相当性は否定しておくのが無難)。

 

「実例刑訴T」94頁 銀行の防犯カメラに写った映像と比較するために、被疑者が銀行で同じ動作をするところを写真撮影したいというときにどのような令状が必要か

(1)まず、検証令状を用いて捜査機関に行わせることができる。

(2)次に、写真の比較を行うことになる専門家自身に写真をとらせた方がよい場合には、鑑定処分許可状により専門家に行わせることもできる。この場合には、検証の場合と異なり直接強制を行うことはできない(222条1項による139条・172条の不準用)。「実例刑訴T」98頁

 

(3)どちらの令状によるにせよ、銀行への連行は、令状の効力として認められる(令状への記載がなされるのが望ましい)。

 

ただし、銀行が被疑者の所在地からあまりに遠い場合には、相当性を欠き許されない場合もある(強制処分は、それを上回る捜査上の必要性がない限り、認められないと考えるべきなので)。

 

また、いきなり強制連行ができるわけではなく、最決平成6年9月16日が判示するとおり連行は説得等の手段を尽くしても任意の同行が事実上不可能と認められる場合に限り許されるものであり、かつ、連行に用いられる有形力も最小限のものでなければならない。(「実例刑訴T」104頁)

 

11 秘密録音 千葉地判平3年3月29日

捜索に立ち会った被告人に対し、捜査官が質問を発し、被告人の応対の声をピンマイクで秘密裏に録音した。そして、被告人の声と、脅迫電話の声が一致するか声紋鑑定をするのに利用した。

 

論証例:強制処分にあたるか。

強制処分とは、…具体的には、@意思に反して、A重要な権利を侵害するような行為をいうと考える。

@については、本件の録音は被告人の合理的意思に反するもので、明らかに要件を満たす。

では次にAについて、重要な権利侵害はあるか。

まず、本件の会話は捜査官に向けられたもので、その会話の内容は捜査官に知られているのだから、会話の内容自体は特に法的保護に値するとはいえない

そこで、声紋をみだりに知られない自由なるものを認め、その侵害が「重要な権利侵害」の要件を満たすとできないか

この点、できないと考える。仮に「声紋を公権力によりみだりに知られない自由」なるものを認めるとしても、声紋は、人の社会的評価と関わるものではないし、知られたからといって悪用される可能性も低いものであるから、これを「重要な権利」とまでいうことはできないと考えるからである。

以上より、本件の秘密録音は、Aの要件を満たさず、強制処分にはあたらないと考える。

 

(声紋の秘密について書いたのは、むしろそちらの方が実際の事案における当事者の利益状況を反映していると考えたからである。捜査官が知りたかったのは声紋なのであり、一方、被告人が隠したかったのも声紋なのである)

 

関連:最高裁平成12年7月12日決定 平12年度重版-2

「本件で証拠として取り調べられた録音テープは、被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするため、被告人との会話を録音したものであるところ、このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、右録音テープの証拠能力を争う所論は、理由がない。」

コメント:本件のテープは、捜査機関が録音したものではなく、民間人が録音したものである。民間人が録音したテープは、捜査機関と共謀して、又は捜査機関に依頼されて録音したものでない限り基本的には証拠排除されないと考えるべきである。違法収集証拠の排除について、日本の最高裁は、捜査機関の違法捜査の抑止の目的をその中核においていると考えられるところ、民間人の収集した証拠を排除しても、捜査機関による違法捜査の抑止の目的は達せられないからである。

司法の廉潔性を強調するならば、私人の収集した証拠についても、排除がありうるであろう。しかし、捜査機関収集の違法証拠の場合であっても、排除されるのはかなり例外的な場合なのだから、私人収集の違法証拠にあっては極限的な場合にのみ排除されるとすべきであろう。

 

12 おとり捜査 東京高判昭和57年10月15日 池袋覚せい剤事件(教材30頁)

所論は、覚せい剤所持の件で被告人を検挙した捜査方法は、いわゆるおとり捜査の典型的なものであり、警察官が被疑者として勾留中のAをおとりに使つて、これまでにない大量の覚せい剤の取引を申し込み、あえて被告人にその犯意を惹起させていながら、被告人のみに刑事責任を負わせることは、憲法31条、14条に違反する不公正な手続であるから、本件公訴は刑訴338条4号により公訴棄却すべきであつたのに、これをしなかつた原判決には右刑訴法の解釈ないしは適用を誤つた違法がある、というのである。

そこで検討すると、本件覚せい剤所持事件の捜査の経過は前記認定のとおりであり、所論のように被告人がいわゆるおとり捜査により検挙されたことは否定し難いが、原審証人Aの供述によると、被告人はAに対し以前にも4、5回、本件直前にはその1か月前に1回、本件の場合と同様の方法で10グラム単位の覚せい剤の取引(被告人からAへの有償の譲り渡し)をしていたことが認められるのであり、以前から覚せい剤を密売のため所持することを反覆的、継続的に行なつていたと推認され、今回の場合もAの譲り受けの申し込みは、覚せい剤所持の犯意のなかつた者にその犯意を誘発させたというのではなく、かねてからよい客があれば覚せい剤を売ろうとして所持の犯意を有していた者に、その現実化及び対外的行動化の機会を与えたに過ぎないというべきである。また前認定のような捜査方法の当否については、覚せい剤の弊害が大きく、その密売ルートの検挙の必要性が高いのに、検挙は通常「物」が存在しないと困難である実情も鑑みると、立川署の警察員が取調べ中のAの自発的申し出に基き、Aの供述の裏づけをとる一方で、Aとつながる密売ルートの相手方の検挙の端緒を得ようとしたことは当該状況下においては捜査上必要な措置であつたと認められ、これが公訴提起手続を無効にするほど、適正手続等の条項に違反した、違法ないしは著しく不当な捜査方法であつたとは認められない。よつて原判決が刑訴法338条4号を適用して、本件公訴を棄却しなかつたのは相当であつて、この点の論旨は理由がない。

 

解説:1、犯意誘発型と機械提供型にわけて、前者を違法、後者を適法とする下級審裁判例が多い。この説は、国が犯罪を作り出す点を主に重視している。2、これに対しては、犯意のない者に対して犯罪を実行させるのは人格的自律権を侵害するから違法と説明するべきとの三井からの批判がある。(ただ、強制・強迫等の手段を用いない限り、対象者の意思の自由は確保されており、意思決定に必要な最低限の基盤は与えられており、人格的自律権が侵害されたとするのは困難と解説者は考えている)。3、おとり捜査が普通の捜査と異なるのは、@国家が犯罪を作り出すということ、A捜査の公平さの侵害が認められることにある。ただ、人格的自律権まで侵害されているとはいいにくい場合が多く、強制処分の問題ではなく、任意捜査の限界の問題とすれば足りる。そして、@やAについては、任意捜査の限界を判断するにあたっての判断要素の一つとしてとりこまれればそれで充分である。このようにすれば、二分説に比してきめ細かい対処が可能となる点で、おとり捜査の適正な運用に、より資する。4、違法なおとり捜査の効果については、争いがある。(解説者は明言していないが、私見としては、通常の違法な任意捜査と同様の取扱がされれば足りると考える)

 

コメント二分論もあるが、賛成できない。犯意を誘発したか否かはあいまいな場合が多く、また範囲誘発の有無だけでなく、働きかけの程度等、範囲誘発以外の要素にも着目する必要があるからである。従って、他の場合と同じ適法性判断枠組みが維持されるべきである(三井ら編「新刑事手続きT」180頁、百選解説、「実例刑訴T」8頁の立場に同じ)。具体的には、以下のとおり。

 

@強制処分か否か → 犯意を誘発されたとしても、強制・強迫等の手段を用いない限り、対象者の意思の自由は確保されており、意思決定に必要な最低限の基盤は与えられており、人格的自律権が侵害されたとするのは困難で、強制処分にはあたらない。

 

A任意捜査の限界 → おとり捜査の必要性、緊急性などさまざまな事情を考慮して、社会通念上相当といえる範囲内かどうかによって決するべき。(∵二分論では一面的。さまざまな事情を考慮に入れて適法性判断はされるべき)

 

答案作成術:なお、ア.国が犯罪者をつくりだすという側面がある、また、イ.適正手続きの観点から問題がある、というおとり捜査の特殊性については、任意捜査の範囲内かどうかを判断する際の重要な考慮要素なので、必ず明示すること。また、かかる特殊性ゆえに、他の捜査方法と比べ、適法となる範囲がかなりせまくなるので、そのことを意識してあてはめをすること。

 

将来の捜査が許されないとした上で、おとり捜査は、過去に犯罪が行われ、その犯人検挙の端緒を得るためにのみ許されるとの考えもあるが(三井)、不当である。事件が起きてからでないと証拠収集保全活動ができないというのは社会常識に反するであろう。かかる問題についても、答案のどこかで二行程度ふれておくのが安全である。

 

違法なおとり捜査の効果:通常の違法捜査の場合と同じに考える。公訴権濫用による控訴棄却、証拠排除、国賠など。

 

cf.コントロールド・デリバリー → おとり捜査と同様、任意捜査の問題として処理すれば足りる。「実例刑訴T」46頁

ライブ・コントロールドデリバリーの特殊性  物をそのままにするため、市中に禁止対象物が拡散するおそれがある。犯罪行為を知りつつ国家が見逃して犯罪行為を助長している

クリーン・コントロールドデリバリーの特殊性  ビーパー等を用いた追跡が、対象者のプライバシーを侵害しないかなどが問題となる(物の場所の所在を教えるだけであり、不利益は大きくなく、強制処分にはあたらないとされる)。

※なお、差押え令状の呈示は、税関(物の直接の占有者)に対してなされ、所有者に対してはなされないのが、一般である。<その後、税関が所有者に通知するか否かは税関法の問題>

 

13 現行犯逮捕の明白性 京都地裁昭和44年11月5日決定 西の京恐喝未遂事件 (犯行からわずか20数分後、犯行現場からわずか20メートル)

(1)緊急逮捕の要件は備わっていたが、現行犯逮捕ないし準現行犯逮捕の要件は備わっていなかった。

(2)緊急逮捕の手続きをとるべきであったのに、この手続きをとっていない点で重大な違法があり、勾留請求は却下されるべきである。

百選解説:1、現行犯では「時間的接着性」と「明白性」が要件となる。2、本件では犯人としての明白性に欠けると判断された。3、一度見失ったがまた発見された場合、一度見失ったことで明白性の要件を欠くと機械的に判断すべきではない。現認された状況が継続していたと見られれば、明白性の要件を肯定できる。4、もっとも令状主義の例外なので、その判断は厳格になされる必要がある。

コメント:再逮捕・再勾留は認めてもよさそうである。

 

14 現行犯逮捕の必要性の要件の要否-必要 大阪高判昭和60年12月18日 鳥羽伏見タクシー踏切立入り事件

(1)強制処分であるから、その要件はできる限り厳格に解釈すべきであって、通常逮捕の場合と同様、逮捕の必要性をその要件と解するのが相当である。

(2)本件では、未だ逮捕の必要性は存在しなかった(国賠請求が認容された)

コメント:通常逮捕の場合と異なり、明文がないが、現行犯逮捕においても、逮捕の必要性を要件とした。

 

15 最高裁平成8年1月29日決定 和光大学内ゲバ事件

(1)212条の準現行犯逮捕の要件を満たすか

いわゆる内ゲバ事件が発生したとの無線情報を受けて逃走犯人を警戒、検索中の警察官らが、犯行終了の約1時間ないし1時間40分後に、犯行場所からいずれも約4キロメートル離れた各地点で、それぞれ被疑者らを発見し、その挙動や着衣の汚れ等を見て職務質問のため停止するよう求めたところ、いずれの被疑者も逃げ出した上、腕に籠手(こて)を装着していたり、顔面に新しい傷跡が認められたなど判示の事実関係の下においては、被疑者らに対して行われた本件各逮捕は、刑事訴訟法212条2項2号ないし4号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものであって、適法である。

 

(2)被告人Aの篭手及び被告人B、同Cの各所持品の捜索、差押えの適法性について

 1 刑訴法220条1項2号によれば、捜査官は被疑者を逮捕する場合において必要があるときは逮捕の現場で捜索、差押え等の処分をすることができるところ、右の処分が逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索、差押えである場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である

 2 これを本件の場合についてみると、原判決の認定によれば、被告人Aが腕に装着していた篭手及び被告人B、同Cがそれぞれ持っていた所持品(バッグ等)は、いずれも逮捕の時に警察官らがその存在を現認したものの、逮捕後直ちには差し押さえられず、被告人Aの逮捕場所からは約500メートル、被告人B、同Cの逮捕場所からは約3キロメートルの直線距離がある警視庁町田警察署に各被告人を連行した後に差し押さえられているが、被告人Aが本件により準現行犯逮捕された場所は店舗裏搬入口付近であって、逮捕直後の興奮さめやらぬ同被告人の抵抗を抑えて篭手を取り上げるのに適当な場所でなく、逃走を防止するためにも至急同被告人を警察車両に乗せる必要があった上、警察官らは、逮捕後直ちに右車両で同所を出発した後も、車内において実力で篭手を差し押さえようとすると、同被告人が抵抗して更に混乱を生ずるおそれがあったため、そのまま同被告人を右警察署に連行し、約5分を掛けて同署に到着した後間もなくその差押えを実施したというのである。また、被告人B、同Cが本件により準現行犯逮捕された場所も、道幅の狭い道路上であり、車両が通る危険性等もあった上、警察官らは、右逮捕場所近くの駐在所でいったん同被告人らの前記所持品の差押えに着手し、これを取り上げようとしたが、同被告人らの抵抗を受け、更に実力で差押えを実施しようとすると不測の事態を来すなど、混乱を招くおそれがあるとして、やむなく中止し、その後手配によって来た警察車両に同被告人らを乗せて右警察署に連行し、その後間もなく、逮捕の時点からは約1時間後に、その差押えを実施したというのである。

 以上のような本件の事実関係の下では、被告人3名に対する各差押えの手続は、いずれも、逮捕の場で直ちにその実施をすることが適当でなかったため、できる限り速やかに各被告人をその差押えを実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたものということができ、刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」における差押えと同視することができるから、右各差押えの手続を適法と認めた原判断は、是認することができる。

 

16 逮捕の違法と勾留 東京高裁昭和54年8月14日 飯山買物袋置引き事件(教材65頁)

(1)駐在所から警察署への同行は、…実質的には逮捕行為にあたる違法なものといわざるをえない(午後11時頃に覆面パトカーで、両側に警察官が同乗)。

(2)しかし、…右実質逮捕の時点において緊急逮捕の理由と必要性はあったと認めるのが相当であり、他方、右実質逮捕の約3時間後には逮捕令状による通常逮捕の手続きがとられていること、右実質逮捕の時から48時間以内に検察官への送致手続きがとられており、勾留請求の磁器についても違法の点は認められないことををあわせ考えると、右実質逮捕の違法性の程度はその後になされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではないと考えられる。

 

コメント:実質的逮捕とそれに続く勾留請求の可否

逮捕手続きに重大な違法がある場合には、それに引き続く勾留は認められないと考えられている。

そして、違法が重大かどうかは、

@実質的逮捕の時点に緊急逮捕の要件を備え、かつ、実質的逮捕の時点から起算しても制限時間内に各手続きがとられているか、A実質逮捕の時点から通常逮捕の手続きがとられるまでの時間は長いか、Bその間の経緯はどうか、など、さまざまな事情を考慮に入れて、判断されることになる。

※判断要素を増やした方が点をとりやすいので、答案戦術として判断要素を増やしている。

なお、Aについては、飯山事件は3時間で違法は重大でないとされ、富山事件は5時間で違法は重大とされたのが、参考になる。5時間もの間、被疑者を実質的に逮捕し、無令状で取調をすれば、@やBの要素に関わりなく、違法は重大としてよい。

 

cf.勾留請求が逮捕の違法を理由に却下された場合の再逮捕・再勾留の可否

コメント:再逮捕は、原則として認められるべきでない。捜査側の落ち度から生じた結果を安易に被疑者の負担に帰せしめるべきでないからである。

もっとも、@刑事手続きにおいては、人権保障と刑罰権の適正な行使の目的とが調和的に実現されるべきところ(法1条)、証拠隠滅・逃亡のおそれがどんなに高くても再逮捕・勾留請求が全く認められないとするのは捜査の必要性を軽視しすぎた解釈であること、A再逮捕・勾留が絶対に認められないとすると、裁判官が逮捕の違法を理由として最初の勾留請求を却下することに対してまで慎重になってしまいかねず人権保障の観点からも望ましくないこと、B先行する身柄拘束においては勾留にまではいたっておらず身柄拘束の期間は短いこと、Cいちおう別の手続きであること、等から、例外的にではあるが再逮捕・勾留が認められてよい場合があると考える。

 そして、例外にあたるかは、前の逮捕手続きに存在した違法にも関わらず身柄拘束を行うことが「人権保障と刑罰権の適正な行使の目的との調和的な実現」の観点からやむをえないものとして是認されるかどうかにより決せられるべきである。(その判断にあたっては、違法の程度、身柄拘束の必要性、嫌疑の程度、捜査の経緯などが考慮されるべきである)

 

17 被告人勾留の場所- 浦和地決平成4年11月10日

コメント:1、被告人・被疑者の勾留は、原則として監獄<刑務所>で勾留される(64条1項・207条1項)。しかし、監獄法1条3項により、警察署に附属する留置場を代用監獄として勾留場所とすることも認められている。2、本決定は、「被告人の勾留場所については、実務上拘置所を原則とする運用がなされており、従って…代用監獄に勾留するには、…特段の事情が必要である」と判示し、本件ではそれが認められないと判断して、職権で移監を命じた。(被疑者勾留では、9割が代用監獄で勾留されるという運用がされているので、被疑者勾留については本決定の趣旨は妥当しないであろう)。3、(1)職権による移監の可否については、勾留状の発布段階で勾留場所の決定権限は裁判官にあり(64条1号)、移監は勾留の裁判の一部変更にすぎない等を理由に肯定するのが多数説である(最判平成7年4月12日も同旨)。(2)被疑者・被告人による移監請求権の有無については、学説では、勾留取消請求権を認めている法の趣旨からすれば、それと同種のより小さい移監請求権を認めることは可能だとするものもあるが、最判平成7年4月12日はこれを否定し裁判官に移監命令の職権発動を促す趣旨でされた勾留取消し請求を却下した裁判に対する不服申立ては許されない、と判断した。

 

18 再逮捕・再勾留 東京地決昭和47年4月4日 (20日間の期限満了後の再勾留請求の事案)(教材69頁)

(1)再勾留の可否

同一被疑事件について先に逮捕勾留され、その勾留期間満了により釈放された被疑者を単なる事情変更を理由として再び逮捕・勾留することは、刑事訴訟法が203条以下において、逮捕勾留の期間について厳重な制約を設けた趣旨を無視することになり被疑者の人権保障の見地から許されないものといわざるをえない。しかしながら同法199条3項は再度の逮捕が許される場合のあることを前提にしていることが明らかであり、現行法上再度の勾留を禁止した規定はなく、また、逮捕と勾留は相互に密接不可分の関係にあることに鑑みると、法は例外的に同一被疑事実につき再度の勾留をすることも許しているものと解するのが相当である。

(2)再勾留の要件

そしていかなる場合に再勾留が許されるかについては、前記の原則との関係上、先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽重、検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また、身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められる場合に限るとすべきであると思われる。

このことは、先に勾留につき、期間延長のうえ20日間の勾留がなされている本件のような場合についても、その例外的場合をより一層限定的に解すべきではあるが、同様にあてはまるものと解され、また、かように慎重に判断した結果再度の勾留を許すべき事案だということになれば、その勾留期間は当初の勾留の場合と同様に解すべきであり、先の身柄拘束期間は後の勾留期間の延長、勾留の取消などの判断において重視されるにとどまるものとするのが相当だと思われる。

(3)本件での再勾留の可否

@事案の重大さ、A前回の勾留当時に存在しなかった新たな証拠によって犯罪の容疑が濃厚になった、B前回の勾留は、本件を含む相互に併合罪関係にあり別々に勾留することも可能な5件の同種事実についてあわせてなされたものであったこと、等から、要件を満たす。

 

百選解説:1、逮捕勾留の一回性の原則があるため、一般には、再逮捕・再勾留は認められない。(∵令状主義、203条以下の身体拘束期間の厳格な制限)。2、もっとも再逮捕については明文あり。再勾留については明文ないも、本決定は勾留との密接関連性から、再勾留も認められる場合があるとした。3、しかし、勾留期間満了の後の再勾留はどんな場合にも認めるべきでない(私見反対)。5、なお、「強制捜査を断念させることが首肯しがたく」という部分は、取調受忍義務を肯定し、かつ取調を勾留の目的と捉えているように読める点で著しく不当である。

私見:再逮捕・再勾留の必要性が特に高く、かつ、不当な身柄拘束の蒸し返しとならない場合には、再逮捕・再勾留が認められると考える。

∵「人権保障と刑罰権の適正な行使の目的との調和的な実現」の観点からは、このような場合に再逮捕再勾留を認めることはやむをえないと思われるからである。

 

19 別件逮捕 浦和地判平成2年10月12日

(1)自白の任意性 → See付録

(2)別件逮捕・勾留と自白の証拠能力について

1 身柄拘束の経過

被告人が、不法残留の嫌疑で、9月9日の深夜吉川警察署に現行犯逮捕され、同月11日引き続き同警察署付属の代用監獄に勾留され、勾留満期日である同月20日、右事実により浦和地方裁判所に起訴されたこと(以下、右身柄拘束を「第一次逮捕・勾留」又は、「別件勾留」という。)、更に、その翌日である21日本件現住建造物等放火の事実により通常逮捕され、引き続き勾留された上、同年10月11日起訴されたこと(以下、右身柄拘束を「第2次逮捕・勾留」又は「本件勾留」という。)は、既に認定したとおりである。

2 第一次逮捕・勾留の適否について

そこで、まず、第一次逮捕・勾留の適否について考えるに、被告人の所持していたパスポートの記載からして、被告人に関する不法残留罪の嫌疑は明白であったこと、不法残留罪は改正前の出入国管理及び難民認定法においても、その法定刑が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金」であって、必ずしも軽微な犯罪とはいえないこと、被告人が住居が不安定でしかも無職の外国人であって、身元が安定していなかったことをも考慮すれば、第1次逮捕・勾留が逮捕・勾留の理由や必要性を全く欠く、それ自体で違法・不当なものであったとまでは認められない。

しかし、他方、捜査当局による被告人の第1次逮捕・勾留の主たる目的が、軽い右別件による身柄拘束を利用して、重い本件放火の事実につき被告人を取り調べる点にあったことも明らかである。すなわち、不法残留罪は、近年外国人の不法就労が社会問題となって以来、当地方裁判所管内では公判請求される例が多いが、その法定刑等からみて、いわゆる重大犯罪とはいえず、逮捕・勾留の法律上の要件があっても、必ずしも身柄の拘束をしなければならないものではない上、そもそも、これらの者について、刑事手続を発動するか行政手続(強制退去手続)のみで済ますか自体も、当局の裁量に属する事項と解されているのであって、現に本件においても、吉川警察署は、被告人を放火の犯人として突き出してきた被害者Cやその友人のBについて、両名がいずれも不法残留者であり、特にCは、自宅のアパートが燃やされてしまった関係で、住居が安定しておらず、勤め先も解雇されていることを知りながら、右両名を逮捕したり、被疑者として取り調べたりしていないのである(なお、当裁判所管内以外の地域の中に、不法残留罪については原則として刑事手続を発動せず、行政手続のみで処理しているところがあることは、当裁判所に顕著な事実である。)。右の点に加え、被告人が別件により逮捕されるに至った経緯(放火の犯人として突き出されたことを契機とすること)及びその後の取調べの状況(前記第六の五記載のとおり、不法残留罪に関する取り調べは、勾留請求後、請求日を含む当初の3日間で実質上すべて終了し、残りの勾留期間は、ほぼ全面的に放火の取調べにあてられていること)等を総合すれば、捜査当局が、本件たる放火の事実につき、未だ身柄を拘束するに足りるだけの嫌疑が十分でないと考えたため、とりあえず嫌疑の十分な軽い不法残留罪により身柄を拘束し、右身柄拘束を利用して、主として本件たる放火につき被告人を取り調べようとする意図であったと認めるほかなく、このような意図による別件逮捕・勾留の適法性には問題がある。

 もっとも、検察官は、いわゆる別件逮捕・勾留として自白の証拠能力が否定されるのは、「未だ重大な甲事件について逮捕する理由と必要性が十分でないため、もっぱら甲事件について取り調べる目的で、逮捕・勾留の必要性のない乙事件で逮捕・勾留した場合」(以下、「典型的な別件逮捕・勾留の場合」という。)に限られる旨主張している。確かに、違法な別件逮捕・勾留の範囲については、右のように説く見解が多いことは事実である。しかし、右見解にいう「もっぱら甲事件について取り調べる目的」を文字どおり、「乙事件については全く取り調べる意図がなく、甲事件だけを取り調べる目的」と解するときは、違法な別件逮捕・勾留というものは、そもそも「逮捕・勾留の理由・必要性が全くない事件について身柄拘束した場合」と同義となって、わざわざ「違法な別件逮捕・勾留」という概念を認める実益が失われてしまう。なぜなら、捜査機関が、いやしくも乙事件で被疑者を逮捕・勾留した場合に、右事件について被疑者の取調べを全くしないということは事実上考えられないからである。また、逮捕・勾留の理由・必要性の概念には幅があるので、実質的にみて軽微と思われる犯罪であっても、捜査機関から、右事実につき捜査の必要性があると主張されれば、逮捕・勾留の理由・必要性が全くないと言い切るのは容易なことではないであろう。しかし、過去の経験に照らすと、いわゆる別件逮捕・勾留に関する人権侵害の多くは、もし本件に関する取調べの目的がないとすれば、身柄拘束をしてまで取り調べることが通常考えられないような軽微な別件について、主として本件の取調べの目的で被疑者の身柄を拘束し、本件についての取調べを行うことから生じていることが明らかである。

 そして、このような場合であっても、捜査機関が、未だ身柄拘束をするに足りるだけの嫌疑の十分でない本件について、被疑者の身柄を拘束した上で取り調べることが可能になるという点では、典型的な別件逮捕・勾留の場合と異なるところがないのであるから、このような「本件についての取調べを主たる目的として行う別件逮捕・勾留」が何らの規制に服さないと考えるのは不合理である。しかし、他方、それ自体で逮捕・勾留の理由も必要性も十分にある別件についての身柄拘束が、たまたま被疑者に他の重大な罪(本件)の嫌疑があるが故に許されなくなるというのも不当な結論であり、そのような結論を導く理論構成は適当でない。当裁判所は、以上の検討の結果、検察官主張の違法な別件逮捕・勾留の定義中、「もっぱら甲事件」とあるのは、「主として甲事件」と、また、「逮捕・勾留の理由と必要性がない乙事件」とあるのは、「甲事件が存在しなければ通常立件されることがないと思われる軽微な乙事件」とそれぞれ読み替える必要があると解する。すなわち、当裁判所は、違法な別件逮捕・勾留として許されないのは、前記のような典型的な別件逮捕・勾留の場合だけでなく、これには「未だ重大な甲事件について被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として右事件について取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることがないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合」も含まれると解するものである。このような場合の被疑者の逮捕・勾留は、形式的には乙事実に基づくものではあるが、実質的には甲事実に基づくものといってよいのであって、未だ逮捕・勾留の理由と必要性の認められない甲事実に対する取調べを主たる目的として、かかる乙事実の嫌疑を持ち出して被疑者を逮捕・勾留することは、令状主義を実質的に潜脱し、一種の逮捕権の濫用にあたると解される。そして、右のような見解のもとに、本件について検討すると、吉川警察署は、被告人を警察に突き出してきたCやBが不法残留者で、特にCについては、逮捕・勾留の要件が明らかに存在していると思われるにもかかわらず、両名に対する刑事手続を発動せず、不法残留の事実について何らの捜査を行っていない(もちろん、逮捕・勾留もしていない)ことからみて、被告人についても、もし放火の嫌疑の問題がなかったならば、不法残留の事実により逮捕・勾留の手続をとらなかったであろうと考えられるのに、主として、未だ嫌疑の十分でない放火の事実について取り調べる目的で、不法残留の事実により逮捕・勾留したと認められるのであるから、本件は、まさに当裁判所の定義による違法な別件逮捕・勾留に該当する場合であるといわなければならない。

従って、本件における被告人の身柄拘束には、そもそもの出発点において、令状主義を潜脱する重大な違法があるので、右身柄拘束中及びこれに引き続く本件による身柄拘束中に各作成された自白調書は、すべて証拠能力を欠くと解するのが相当である。

3 余罪取調べの限界について

前記のとおり、当裁判所は、違法な別件逮捕・勾留の範囲につき、検察官とはやや見解を異にするものであるが、仮に違法な別件逮捕・勾留に関し検察官の定義に従った場合であっても、右別件による身柄拘束を利用して行う本件についての取調べの方法に一定の限界があると解すべきことは、また、別個の問題であって、適法な別件逮捕・勾留中の本件についての取調べが無条件に許容されることにはならない。これは、逮捕・勾留について、我が刑事訴訟法が、いわゆる事件単位の原則をとることにより、被疑者の防禦権を手続的に保障しようとしていることから来る当然の帰結である。

別件で適法に勾留されている被疑者に対する余罪の取調べがいかなる限度で許されるかについては、これまでも種々の角度から論ぜられてきたが、当裁判所は、右余罪の取調べにより事件単位の原則が潜脱され、形骸化することを防止するため、これが適法とされるのは、原則として右取調べを受けるか否かについての被疑者の自由が実質的に保障されている場合に限ると解するものである(例外として、逮捕、勾留の基礎となる別件と余罪との間に密接な関係があって、余罪に関する取調べが別件に関する取調べにもなる場合は別論である。)。刑事訴訟法198条1項の解釈として、逮捕・勾留中の被疑者には取調べ受忍義務があり、取調べに応ずるかについての自由はないと解するのが、一般であるが(右見解自体に対する異論にも傾聴すべきものがあるが、ここでは実務を強く支配している右の見解に従って論を進める。)、法が、逮捕・勾留に関し事件単位の原則を採用した趣旨からすれば、被疑者が取調べ受忍義務を負担するのは、あくまで当該逮捕・勾留の基礎とされた事実についての場合に限られる(すなわち、同項但書に「逮捕又は勾留されている場合」とあるのを、「取調べの対象となる事実について逮捕又は勾留されている場合」の趣旨に理解する)というのが、その論理的帰結でなければならない。もしそうでなく、一旦何らかの事実により身柄を拘束された者は、他のいかなる事実についても取調べ受忍義務を負うと解するときは、捜査機関は、別件の身柄拘束を利用して、他のいかなる事実についても逮捕・勾留の基礎となる事実と同様の方法で、被疑者を取り調べ得ることとなり、令状主義なかんずく事件単位の原則は容易に潜脱され、被疑者の防禦権の保障(告知と聴聞の保障、逮捕・勾留期間の制限等)は、画餅に帰する。従って、捜査機関が、別件により身柄拘束中の被疑者に対し余罪の取調べをしようとするときは、被疑者が自ら余罪の取調べを積極的に希望している等、余罪についての取調べを拒否しないことが明白である場合(本来の余罪の取調べは、このような場合に被疑者の利益のために認められた筈のものであり、現実に行われている余罪の取調べの大部分も、かような形態のものである。)を除いては、取調べの主題である余罪の内容を明らかにした上で、その取調べに応ずる法律上の義務がなく、いつでも退去する自由がある旨を被疑者に告知しなければならないのであり、被疑者がこれに応ずる意思を表明したため取調べを開始した場合においても、被疑者が退去の希望を述べたときは、直ちに取調べを中止して帰房させなければならない。

右のような見解に対しては、刑事訴訟法223条2項が参考人の取調べに関し、同法198条1項但書を準用していることを根拠に、そもそも、法は、人が身柄を拘束されているか否かによって取調べ受忍義務の有無を決しているのであり、身柄拘束の根拠となる事実の如何によって右義務の存否が左右されるいわれはないという議論がある。確かに、参考人については取調べの対象となる事実に関し身柄を拘束されているという事態が考えられないわけであるから、法198条1項但書にいう「逮捕又は勾留されている場合」を、前記のとおり、「取調べの対象となる事実について逮捕又は勾留されている場合」の趣旨に理解するときは、右準用規定に関する限り「逮捕又は、勾留されている場合を除いては」という除外規定が、実質的に機能する場面は存在しないことになる。しかし、そのことを理由に、逆に、198条1項但書にいう「逮捕又は勾留されている場合」の意義を、文字どおり、「いやしくも何らかの事実について逮捕又は勾留されている場合」の趣旨に理解すべきであるとするのは、まさに本末を転倒した議論であるといわなければならない。法198条1項の解釈は、本来、同条の立法趣旨や令状主義なかんずく事件単位の原則等刑事訴訟法の底を流れる基本的考え等を合理的に勘案して決せられるべきものである。もちろん、かくして導かれた同条の解釈を同条を準用する他の規定にあてはめた場合に著しい不合理が生ずるときは、遡って前記のような同条の解釈の当否自体が問題にされることもあり得るが、参考人の取調べについて法198条1項但書を準用する223条2項の解釈としては、取調べの対象となる事実につき身柄を拘束されているということの考えられない参考人について、「逮捕又は勾留されている場合を除いては」という除外規定に該当する場合が事実上存在しない結果、参考人は、逮捕又は勾留されている場合であると否とにかかわらず、常に出頭拒否及び退去の自由を保障されていると解することによって、何らの不都合は生じないし、むしろその方が人権保障を強化した刑事訴訟法の解釈として合理的であると考えられる。従って、法223条2項が198条1項但書を準用していることは、同項但書の前記のような解釈の何らの妨げになるものではないというべきである(もっとも、立法技術の問題としては、223条2項において、198条1項但書を同条3項ないし5項と一括してそのまま準用するのではなく、参考人は、取調べにあたり常に出頭拒否及び退去の自由を有する旨明記する方が賢明であったと思われるが、いずれにしても瑣末な立法技術の問題であって、このような点を論拠として被疑者の取調べ受忍義務の範囲を論ずるのは相当でない。)。

最後に、検査官が、放火の事実は、第一次逮捕・勾留の基礎とされた不法残留の生活状況の一部として一連の密接関連事実であるから、第1次逮捕・勾留中に放火の事実について取り調べることは許されるとしている点について検討する。右見解は、いわゆる狭山事件上告審決定(最二決昭和52・8・9)に依拠するものと思われるが、そもそも右決定が、甲事実による別件逮捕・勾留中の被疑者に対し、これと社会的事実として一連の密接な関連がある乙事実につき、甲事実の取調べに付随して取り調べることを違法でないと判示した趣旨は、両事実の間に、乙事実に関する取調べがすなわち甲事実に関する取調べにもなるという密接な関連性があることに着目したためにほかならず、右決定の事案はまさに右論理の妥当する事案なのである。しかるに、本件における別件と本件との間には、そのような密接な関連性は認められない。なぜならその関連性は、本件たる放火罪は、別件たる不法残留の事実の継続中に犯されたもので、放火の動機に不法残留中の生活状況が関係し得るという程度ものに止まるのであって、逆に、放火の事実の取調べが、不法残留の事実の動機、態様等を解明するためにいささかでも役立ち得るとは到底考えられないからである(のみならず、仮に放火の事実と不法残留の事実との間になにがしかの関連性があるとしても、第一次逮捕・勾留中における放火の事実に関する取調べが、別件たる不法残留の事実の取調べに「付随して」行われたというようなものではなかったことは前記第六、五認定の取調べ経過に照らして明らかであろう。)。

ところで、本件において、被告人の取調べにあたった吉川警察署の警察官及び浦和地方検察庁の鈴木検事は、余罪取調べに関する前記のような限界を全く意に介することなく、別件逮捕・勾留中においても、本件たる放火の事実について、別件の不法残留に関する取調べの場合と同様、被告人に取調べ受忍義務があることを当然の前提として取調べを行ったことが明らかであって、当然のことながら、被告人に対し、前記のような意味において、本件たる放火の事実については取調べを受ける義務がない旨告知したことはなく、被告人自身も、かかる義務がないということを知る由もなかったと認められる(のみならず、右取調べの方法は、犯行を否認する被告人に対し、目撃者がいるといって自白を迫り、被告人が一旦マッチを投げて放火したと供述するや、その方法では火事にならないから他の方法だろうと執拗に供述を迫るなど、取調べ受忍義務がある場合として考えてみても、明らかに、妥当を欠くものであったと認められる。)。従って、本件第一次逮捕・勾留中になされた本件放火に関する取調べは、明らかに許される余罪取調べの限界を逸脱した違法なものであり、これによって作成された被告人の自白調書は、証拠能力を欠き、また、その後の第二次逮捕・勾留は、右証拠能力のない自白調書を資料として請求された逮捕状・勾留状に基づく身柄拘束であって、違法であり、従ってまた、その間に作成された自白調書も証拠能力を欠くと解すべきである。

4 別件逮捕・勾留中の自白の証拠能力に関する結論

以上のとおりであって、本件各自白調書は、そもそも違法な別件逮捕・勾留中又はこれに引き続く本件による逮捕・勾留中に作成されたものであるからすべて証拠能力を欠くと解すべきであるが、特にそのうちの放火の事実に関するものは、令状主義とりわけその内容をなす事件単位の原則を潜脱し、明らかに余罪取調べの限界を逸脱した違法な取調べによって作成されたか、右自白調書を資料として請求された逮捕状・勾留状に基づく身柄拘束期間中に作成されたものであるから、その意味においても証拠能力を認めるべきではなく、いずれにしてもこれらを有罪認定の資料とすることができない。

 

本判決の分析:(1) 本件は、別件逮捕につき、「未だ逮捕・勾留の理由と必要性の認められない甲事実に対する取調べを主たる目的として、かかる乙事実の嫌疑を持ち出して被疑者を逮捕・勾留すること」とした上で、本件逮捕を別件逮捕と認定した。

(別件逮捕は実質的には、令状のない本件についての逮捕であり、実質的に令状主義を潜脱するものであり、逮捕権の濫用として許されないというのが、本判決の理由付け)

 

(2) 別件逮捕であると認定できれば、余罪取調の話はでてこないはずであるが、本件では、上訴審での異なった判断もありうべきことから、念のため、余罪の取調の限界についても論じている。

そして、一般的には取調受忍義務を肯定しつつも、身柄拘束のない余罪との関係では、取調受忍義務はないとして、取調受忍義務を事件単位的に考え、そこから、余罪取調の限界として、必ず、任意取調べとして行われなければならないとしている。例外として、狭山事件判決を参考に、余罪と本罪の両事実の間に、余罪に関する取調べがすなわち本罪に関する取調べにもなるという密接な関連性がある場合をあげている。本件では、この例外にあたらないことを認定した上で、取調受忍義務を課した上でなければできないような態様で余罪についての取調がなされていることを認定し、違法としている。

 

(3) さらに、(1)(2)の判断を受けて、自白調書の証拠能力を排除している。

 

私見:(1) 私見は、別件逮捕につき、「専ら〜」の場合をいうと考える。

「主として〜」とすると、大小異なる複数の犯罪を犯した者がいる場合に、重要性の低い方の犯罪については、(通常は逮捕が認められるような事例であったとしても)、主として重要性が大きい方の取調により多く身柄が利用されるであろうことを理由として、逮捕ができないということになろう。

しかし、かかる見解は、別件の身柄拘束の必要性を軽視するものであり、賛成できない。

 

 (本件基準説・別件基準説という分類が従来はされてきたが、むしろ「専ら」とするのか「主として」とするかの争いと捉える方が有益である。本件基準説というネーミング自体がミスリーディングであると指摘されているように、本件基準説・別件基準説という名称にこだわるのは生産的でない)

 

(2) 余罪の取調の限界については、本件や富士高校放火事件一審判決(東京地決昭和49年12月9日、教材107頁)のように、取調受忍義務を事件単位的に考えて、余罪取調については、純粋な任意取調べのみが許される、と考える。

(例えば、5日連続以上で取調がなされていれば、高輪グリーンマンション事件との比較から、相当性の要件を欠き違法と考える。<取調受忍義務があればこのような捜査も通常は適法となる>)

 

※取調受忍義務を否定する見解(学者に多い)については、なぜに任意の取調なのに、被疑者の意思に反して接見指定ができるのか、説明がつかない。

また、取調受忍義務を肯定しつつ、事件単位的に考えることを否定する見解(検察官に多い)は、余罪が被告事件であっても、かかる被告事件にまで取調受忍義務が及ぶこととなりかねず、不当である。接見指定について事件単位的に考えるのに、取調受忍義務について事件単位的に考えないのは矛盾しているというべきである。

 

 ※なお、このような批判に対し、取調受忍義務を否定する見解から、「身柄拘束があっても取調中であることを理由としてはそもそも接見指定はできないと考えるべきであり、接見指定は、検証や鑑定のように強制処分に立ち会わせる必要がある場合に、かかる強制処分と弁護人の接見交通権を調和する観点からのみ認められるものと理解すべきであって、このように理解すれば何の矛盾も生じない」との反批判がされることがある。

しかし、やはり取調受忍義務否定説には賛成できない。

身柄拘束につき、厳格な期間制限があることにより、捜査機関は捜査を短期間で行うことを余儀なくされるという負担を強いられる反面、被疑者は他国の法制度におけると比べてかなり短期間のうちに釈放されるという利益を享受しているのである。

とすれば、公平の観点から、少なくとも被疑事件との関係で、被疑者に捜査機関への一定の協力義務(取調受忍義務)を課すことも、許容されるべきと考える。(もし、かかる協力義務を否定し、任意の取り調べしか許されないとするのであれば、被疑者が取調を拒絶することが相次ぎ、捜査実務はなり行かなくなること必至である。)

198条1項を反対解釈し、取調受忍義務を肯定すべきである。

 

学説通説:(1)通説は、別件逮捕の意義につき「主として〜」という立場をとり、(2)一方、余罪取調の限界については、取調受忍義務を否定する立場から、余罪取調も本罪の取調も違いはなく、限界はないとする。

 

なお、別件で逮捕中に判明した本件で取調をしまくる場合については、別件の逮捕勾留の必要性が弱まり、主として本件についての逮捕勾留であると評価できるような状態になったときには、本件で逮捕令状が発布されるべきであり、かかる令状を得るのが困難であるために、別件による身柄拘束をあえて継続させてこれを本件に利用すれば、その時点から身柄拘束は本件についてのものと評価できるので、かかる時点から身柄拘束は令状主義の潜脱として違法となろう。

 

判例・実務:(1)判例・実務では、別件逮捕の意義につき「専ら〜」とする方向で固まりつつあるように思われる(狭山事件最高裁判決参照。本判決や蛸島事件金沢地裁七尾支部判決などは例外の部類に属すると評価されるようである。両判決ともやや古く、近時は、「主として〜」とする立場の裁判例・実務家の著作はみかけなくなった)。

 

一方、余罪取調の限界については、二つの立場が均衡しているように思われる。

 

一つは、取調受忍義務を事件単位的に考え、余罪取調は、取調受忍義務を課さずに、かつ、任意になければならないとし、実質的に取調受忍義務を課したような取調となっていないか、また、任意取調として相当かを問題とする立場である(富士高校放火事件一審判決・平良木・小林充裁判官・私見の立場)。

もう一つは、身柄拘束期間を最小限にとどめるため身柄拘束中の被疑者の取調は主として身柄拘束の理由となっている事件についてなされなければいけないなどとして、令状主義の潜脱にならないか、判断する立場である(神戸まつり事件判決)。

両説はかなり均衡しているのであるが、どちらかに旗をあげるとすれば、後者の立場の方がやや優勢であるように思う。(大変口惜しいが…)

 

※東京地判平成12年11月13日 平成13年度重版-刑訴1 途中から別件についての身柄拘束の必要性が失われ、その時点から実質的には本件についての身柄拘束となったと認定された事例

 「(…遅くとも…の時点では)実質上、X事件を取り調べるための身柄拘束となったとみるほかはなく、…その間の身柄拘束は、令状によらない違法な身柄拘束となったものであり、その間の被告人に対する取調も、違法な身柄拘束状態を利用して行われたものとして違法である。」

 

20 一罪一勾留の原則 福岡高裁昭和42年3月24日決定

事案勾留のまま起訴されたが、再び傷害事件を起こし、現行犯逮捕され、勾留された(傷害は、他の訴因と実体法上一罪)。

(1)分割勾留の可否:一罪一勾留の原則から検討するに、勾留の対象は逮捕とともに現実に犯された個々の犯罪事実を対象とするものと解するのが相当である。したがつて、被告人或いは被疑者が或る犯罪事実についてすでに勾留されていたとしても、さらに他の犯罪事実について同一被告人或いは被疑者を勾留することが可能であつて、その場合に右各事実がそれぞれ事件の同一性を欠き刑法第四五条前断の併合罪の関係にあることを要しない。それらの各事実が包括的に一罪を構成するに止まる場合であつても、個々の事実自体の間に同一性が認められないときには、刑事訴訟法第60条所定の理由があるかぎり各事実毎に勾留することも許されると解するのが相当である。同時逮捕・勾留が法律上可能であった場合には、それが事実上可能であったかどうかにかかわらず、分割勾留はできない、として本判決の一般論に反対する学説が多い。

けだし、勾留は主として被告人或いは被疑者の逃亡、罪証隠滅を防止するために行われるものであつて、その理由の存否は現実に犯された個々の犯罪事実毎に検討することが必要であるからである(刑事訴訟法第60条第1項参照)。

もつとも、同一被告人或いは被疑者に対し数個の犯罪事実ことに当初から判明ている数個の犯罪事実についてことさらに順次勾留をくり返すことは不当に被告人或いは被疑者の権利を侵害するおそれがあり、その運用についてはとくに慎重を期さなければならないことはいうまでもない。

しかし本件においては、すでに説示した経過に徴し、再度勾留にかかる傷害事犯は最初の勾留時は勿論起訴当時においても予測できなかつた新たな犯罪行為であるから、たとえそれが最初の勾留又は起訴にかかる傷害事犯とも包括して暴力行為等処罰に関する法律第1条の3の常習傷害罪の一罪を構成するに止まるとしても、これについて再び勾留する理由ないし必要性があるかぎり、本件再度の勾留は必ずしも不当とはいえない。学説の多数は、この結論には賛成する。

右と異る原裁判所の見解には賛同し難い。なお、原裁判所は、本件抗告に対する意見のなかで、包括一罪について既判力の関係で一罪性を認め、勾留に関する関係では個々の犯罪事実が対象となるものとして一罪性を否定することは恣意的に一罪を分断し包括一罪を認めた趣旨を没却するものであるという。しかしながら、公訴の提起の効力及び既判力が一罪の全てに及ぶ(刑事訴訟法第256条、第312条、第337条第1号)とされるのは同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないいわゆる一事不再理の原則(憲法第39条)に基く法的安定性の強い要請によるものであるのに対し、他方勾留は主として被告人或いは被疑者の逃亡、罪証隠滅を防止するというきわめて現実的な要請によるものであり、それとこれとはそれぞれ制度本来の趣旨を異にするものであつて、必ずしも直接関連するものではなく、いわゆる常習一罪ないし包括一罪の関係で、既判力の及ぶ範囲と勾留の効力の及ぶ範囲とが時にその限界を異にするばあいがあつても、けだしやむをえないところである。

(2)分割勾留の場合の勾留期間(60条2項・208条1項) 刑事訴訟法第60条第2項は、起訴前の被疑者を逮捕勾留した場合における勾留期間及びその起算点について「勾留期間は公訴の提起があつた日から2箇月とする」旨規定し、同法第208条第1項は被疑者に対する勾留期間について「勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときは検察官は直ちに被疑者を釈放しなければならない」旨規定する。その法意は勾留事件についてはなるべく速かに裁判所の審判を請求し、審理の促進をはかり、迅速な裁判を受ける被告人の権利を実質的に保障しようとするにある。…(公訴不可分の原則)、したがつて、甲事実が裁判所に係属中さらに乙事実について審判を求めるためには検察官は同法第312条に基き訴因の変更(甲、乙両事実が包括的に一罪を構成する場合)、追加(甲、乙両事実が科刑上の一罪である場合)の請求をしなければならない。

そうすると、右の場合、甲事実について勾留のまま公訴起訴がなされ、その後乙事実について逮捕、勾留がなされた(これが許されることはすでに前段説示のとおり)ときには、乙事実については甲事実の係属中もはや公訴の提起は許されないから、勾留期間及びその起算点を公訴提起にかからしめている同法第60条第2項、第208条第1項の規定はそのまま乙事実に対する勾留に適用するわけにはいかない。

…公訴提起は起訴状に訴因を明示して裁判所に対して審判を請求する訴訟行為であり、訴因の変更、追加は公訴事実の同一性を害しない限度において起訴状に記載された従前の訴因に代えて新たな訴因を掲げ、或いは従前の訴因に新たな訴因を附加し、これに対して裁判所の審判を請求する訴訟行為であり、両者の性質はきわめて類似し、けつして異質のものではない。なるほど原決定が指摘するとおり公訴の提起は要式行為とされ、訴因の変更、追加の請求は要式行為とされていない。公訴の提起が要式行為とされるのは被告人保護のためである。訴因の変更、追加の請求が要式行為とされなかつたのは、それが公訴の提起を前提とし、公訴事実として起訴状に明記された訴因に代え或いはこれに附加して新たな訴因の審判を求めるものであるから、その限度においてはあえて要式行為としなくとも被告人の保護に欠けるところがないであろうとの考えに出でたものと解される。したがつて、要式行為であるか否かによつて両者を相容れないものとすることには賛成し難い。

以上、かれこれ考え合わせると前記設例の場合における乙事実に対する勾留の期間及びその起算点について刑事訴訟法が何ら規定を設けなかつたのは、立法者がかかる事態の生ずることを想起しなかつたためとも考えられ、いわば法の不備ともいえるが、それはそれとしてむしろ一歩進んで訴因の変更、追加の請求を公訴の提起に準ずるものと解し、同法第60条第2項、第208条第1項の「公訴提起」とは訴因の変更、追加の請求をも含むものと解するのが相当である。そして右は同法条の精神に合致こそすれ、決して相反するものではない。

 

cf.名古屋地判52年3月1日

◆住居侵入と常習累犯窃盗の両者につき別個に勾留状が発付されている事件(当初から同時勾留は可能であった)において、公判期日に、検察官が両者を包括一罪の関係にあるとして訴因を変更し、裁判所がこれを許可したときは、裁量によりいずれか一方の勾留を取消すのを相当とするとした事例

 

福岡高裁49年10月31日決定

◆甲事実で保釈中、その勾留状発付当時判明していなかつた包括一罪の関係にある乙事実で再び勾留され乙事実を追加する訴因変更が行われた場合に、乙事実の勾留を一罪一勾留の原則に反するとして取り消すことの適否(消極)

コメント:甲事実の令状発付時に乙事実が判明しておらず、事実上同時勾留が不可能であった場合について、分割勾留を認めた判決である。一方、学説では、事実上同時勾留が不可能でも、法律上同時勾留が可能だったならば、分割勾留を認めないとする立場が有力である。

捜査側に不可能を強いるのもいきすぎなので、@事実上同時勾留が不可能で、かつ、A再度の身柄拘束に伴う不利益を被疑者に負担させることを正当化できる事情がある場合(「実例刑訴T」130頁を参考にした)には、分割勾留を認めても良いのではなかろうか。

 

21 TBS事件 最高裁平成2年7月9日(警察による押収処分に対する準抗告事件)

コメント:弁護人は憲法21条に反するとして争った。刑事訴訟法上の問題として争うなら、押収の必要性がなく、218条1項に反するとして争えばよかった。どちらの争い方でも、結局は、押収の必要性と押収される側の受ける不利益との利益衡量で決せられることになり、結論に差異は生じないものと思われる。

 

cf.日テレ事件 最高裁平成1年1月30日決定:検察官による押収の事例。

cf.博多駅事件 最高裁昭和44年11月26日決定:裁判所による押収の事例。

 

22 令状による捜索の範囲 最判平成6年9月8日 大阪ボストンバッグ捜索事件 (教材128頁)

事案:ボストンバッグをだきかかえ、捜査員の再三の開示要求にも応じなかった。

判旨:京都府中立売警察署の警察官は、被告人の内妻であった甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、平成3年1月23日、右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが、その際、同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって、右のような事実関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当である。

 

百選解説(川出):1、まず、人の身体は、文理上場所と区別されており、また侵害されるプライバシーの利益も質的に異なるから、原則として場所に対する捜索令状で、人の身体を捜索することはできない。2、しかし、例外的にできる場合がある。では、どのような場合に人の身体も捜索できるか?まず、そこに居合わせており、捜索の目的物を所持している疑いがあればよいとする見解がある。しかし、この見解は、人の身体を場所に含める考え方に他ならないと思われ、不当である。少なくとも、そこに居合わせた者が、捜索の実施中あるいは開始の直前に、その場所にあった捜索の目的物を、その身体に隠匿したと疑われる状況がなくてはならないであろう。3、本判決は、必要な処分と見たのか、場所に対する捜索自体と見たのか明らかでない。ただ、目的物を隠匿した疑いについて特に判示していない点からすると、後者に近いとも思われる。

 

Ogi:家の外まで持ち出しても、それが家の中から持ち出されたことが強く疑われるなら捜索の対象としてよいと考えられる。そうすると、令状の効力として、というより、「必要な処分」としてできるという方が説明がしやすい。

判断要素としては、@その荷物を持っている者がその捜索場所の管理権者とどのような関係にあるか、Aよくその場所にいるのか、B捜索場所にあった証拠物を隠匿している蓋然性は大きいか、などがあげられる。

本件では、@内妻であり密接な関係にあり、Aその場所に住んでいるものであり、B捜索の対象は覚せい剤と証拠隠滅しやすいものであり、Cバッグを抱えてはなさなかったことからすれば、その中に覚せい剤がある蓋然性が強かった。

 

cf.東京高判平成6年5月11日

(1)場所に対する捜索差押許可状の効力は、当該捜索すべき場所に現在する者が当該差し押さえるべき物をその着衣・身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押を有効に実現するためにはその者の着衣・身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の着衣・身体にも及ぶものと解するのが相当である(もとより「捜索」許可状である以上、着衣・身体の捜索に限られ、身体の検査にまで及ばないことはいうまでもない。)。(2)本件へのあてはめ @暴力団組長の自宅に現在する暴力団の配下である乙が両手をズボンのポケットに突っ込んだままという挙動を続けていて、そのポケット内に差し押さえるべき物を隠匿している疑いがきわめて濃厚であり、A乙が部屋を出て行く素振りを見せ激しく抵抗してその場を逃れようとし、捜査官の目の届かない所でポケット内の物を廃棄するなどの行為に出る危険性が顕著に認められる、B組織的かつ大規模な覚せい剤密売事犯で関係者による罪証隠滅のおそれが高い、C差押の目的物は、メモや覚せい剤であり、比較的小さい物で、衣服のポケットなどに容易に隠匿できる、等の状況の下では、本件捜索は適法である。

 

 

23 令状の呈示 大阪高判平成6年4月20日

事案:「宅急便です」被告人方ほぼ中央まで入ってから、令状を呈示。

判旨:@薬物犯罪において捜索に拒否的態度をとるおそれのある相手方であって、その住居の玄関扉等に施錠している場合は、…A証拠隠滅工作に出る余地を与えず、かつ円滑に捜索予定の住居内に入って捜索に着手できるための社会的に相当な手段方法をとることが「必要な処分」<111条>として許容される。(但し、捜索処分を受ける者の権利を損なうことがなるべく少ない方法でなければならない)

コメント:令状の事前呈示は、受忍的・協力的な態度を相手方がとること及び呈示の可能な状況があることが前提とされている。捜索に相手方が非協力的であることが予測され、事前の令状の呈示をできる状況にないときは、事前の令状の呈示がなくても、違法とはならない。

もっとも、(令状の呈示のできる状態になり次第)即座に、令状の呈示がなされなければならないであろう。

Ogi:(1)覚せい剤等の薬物については、トイレに流す、衣服の中に隠すなどの方法で瞬間的に証拠隠滅ができる。

(2)捜索に拒否的態度をとるおそれ、というのは、何もかいてなければ、そう認定してよい。薬物犯罪で捜索に協力的であることはめったにない。

参照:最判平成14年10月4日 平成14年度重版-刑訴3

…(原審<大阪高判14・1・23>の事案の引用-省略)…

(1) …(令状の呈示に先立ってホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した)措置は、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり、社会通念上相当な態様で行われていると認められるから、刑訴法222条1項、111条1項に基づく処分として許容される。

(2) 222条1項、110条による捜索差押え許可令状の呈示は、手続きの公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから、令状の執行に着手する前の呈示を原則とするべきであるが、前記事情の下においては、警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは、法意にもとるものではなく、捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって、適法というべきである。

警察官Xは、覚せい剤取締法違反被疑事件の捜索差押えのため被疑者甲方に赴いたところ、玄関口に監視カメラが設置されていたので、付近で待機した上、たまたま出前に来た寿司屋の店員に続いて玄関内に立入り、Xが甲に対し、「警察のものです」と告げた上、捜索許可令状を示そうとした。甲はテーブルの上にあった小物入れを手に持ち窓から逃げようとしたので、Yは土足のまま室内に入って追いかけ、小物入れを取り上げたが、甲には逃げられた。Xは、甲の内妻の乙に対し右令状を呈示し、小物入れから覚せい剤・注射器等を押収した。適法か。実例刑訴T―事例19

(1)立ち入った行為―適法。事前の令状の呈示の規定が、適用されるべきような状況にない。覚せい剤事犯であり、証拠隠滅は容易。また、拒否的態度に出るおそれがあり、しかも、監視カメラがおかれているように、被疑者はかなり警戒している。

(2)小物入れをとりあげる行為―証拠を保全するために必要な行為であり、当然適法である。

(3)令状を内妻に提示した行為―114条の立会人への呈示として適法。もっとも、114条の立会人への呈示は法律上の義務ではない。

 

24 令状による差押の範囲  最判昭和51年11月18日

事案:恐喝事件について「暴力団を標章する状、バッチ、メモ等」を捜索・差押の対象とした令状。これに対し、賭博メモ等を差押。

判旨(1)捜索差押の範囲

右捜索差押許可状には、前記恐喝被疑事件に関係ある「暴力団を標章する状、バッチ、メモ等」が、差し押えるべき物のひとつとして記載されている。この記載物件は、右恐喝被疑事件が暴力団である奥島連合奥島組に所属し又はこれと親交のある被疑者らによりその事実を背景として行われたというものであることを考慮するときは、奥島組の性格、被疑者らと同組との関係、事件の組織的背景などを解明するために必要な証拠とし掲げられたものであることが、十分に認められる。そして、本件メモ写しの原物であるメモには、奥島組の組員らによる常習的な賭博場開張の模様が克明に記録されており、これにより被疑者である朴鐘石と同組との関係を知りうるばかりでなく、奥島組の組織内容と暴力団的性格を知ることができ、右被疑事件の証拠となるものであると認められる。してみれば、右メモは前記許可状記載の差押の目的物にあたると解するのが、相当である。

(2)別件捜索・差押

  憲法35条1項及びこれを受けた刑訴法218条1項、219条1項は、差押は差し押えるべき物を明示した令状によらなければすることができない旨を定めているが、その趣旨からすると、令状に明示されていない物の差押が禁止されるばかりでなく、捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押えることも禁止されるものというべきである。そこで、さらに、この点から本件メモの差押の適法性を検討すると、それは、別罪である賭博被疑事件の直接の証拠となるものではあるが、前記のとおり、同時に恐喝被疑事件の証拠となりうるものであり、奥島連合名入りの腕章・ハッピ、組員名簿等とともに差し押えられているから、同被疑事件に関係のある「暴力団を標章する状、バッチ、メモ等」の一部として差し押えられたのもと推認することができ、記録を調査しても、捜査機関が専ら別罪である賭博被疑事件の証拠に利用する目的でこれを差し押えたとみるべき証跡は、存在しない。

 

関連:目的物の明示が問題となった判例として都教組事件(最高裁昭和33年7月29日決定) 百選A3

事案:罪名-「地方公務員法違反」、捜索場所-都教組本部、目的物-「会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告文書、メモ等本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」との捜索差押令状

判旨:(1) 憲法35条は、捜索、押収については、その令状に、捜索する場所及び押収する物を明示することを要求しているにとどまり、その令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示することまでは要求していないものと解すべきである。されば、捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法の要求するところでなく、

捜索する場所及び押収する物以外の記載事項はすべて刑訴法の規定するところに委ねられており、刑訴219条1項により右許可状に罪名を記載するに当っては、適用法条まで示す必要はないものと解する。

(2) 本件許可状における捜索すべき場所の記載は、憲法35条の要求する捜索する場所の明示として欠くるところはないと認められ、また、本件許可状に記載された「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」とは、「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」と記載された具体的な例示に附加されたものであって、同許可状に記載された地方公務員法違反被疑事件に関係があり、且つ右例示の物件に準じられるような闘争関係の文書、物件を指すことが明らかであるから、同許可状が物の明示に欠くるところがあるということもできない。

 

25 令状によるフロッピーの包括的差押 大阪高判平成3年11月6日 (教材132頁)

(1)一部に被疑事実に関するものが含まれていると疑うに足りる合理的な理由があり、かつ(2)捜索差押の現場で被疑事実との関連性がないものを選別することが容易でなく、選別に長時間を費やす間に罪証隠滅をされる虞れがあるようなときはには、<効果>全部のフロッピーディスクを包括的に差押えることもやむを得ない措置として許容されると解すべきである。

 

私見:捜索の必要性の問題として論じるのが、要件にひきつけており、書きやすいのでないか。どちらにしろ、捜索の必要性と差押えを受ける者の不利益との利益衡量ということになろう。

 

関連:最決昭和44年3月18日 差押の必要性 国学院大学映研フィルム事件(教材112頁) 百選A2

弁護人の主張:@憲法21条違反、A押収の必要性がないことを理由とする法99条<222条1項>違反、を主張して差押の裁判に対する準抗告<法430条>を行った。

判旨:(1)「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に差押をすることができるのであるから、検察官等のした差押に関する処分に対して、同法430条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが相当である。

(2) そして、差押は「証拠物または没収すべき物と思料するもの」について行なわれることは、刑訴法222条1項により準用される同法九九条1項に規定するところであり、差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であっても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない」(差押処分を取消した地裁の決定が維持された)

 

※差押えの必要性がなければ、差押えの処分は取消される。「明らかに」と本判決はいっているが、それは枕言葉のようなもので、差押えの必要性がないと認められるときは、差押えは認められるべきでない(Ogi同意)。

 

26 220条の「逮捕の現場」 東京高判昭和44年6月20日 ベトナム帰休兵事件 (教材138頁)

思うに、刑事訴訟法第220条第1項第2号が、被疑者を逮捕する場合、その現場でなら、令状によらないで、捜索差押をすることができるとしているのは、逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索差押が適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索押収令状が発付される要件を殆んど充足しているばかりでなく、逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要があるからである。従つて、同号にいう「逮捕の現場」の意味は、前示最高裁判所大法廷の判決からも窺われるように、右の如き理由の認められる時間的・場所的且つ合理的な範囲に限られるものと解するのが相当である。

 これを右(ハ)の大麻たばこ7本に関する捜索押収についてみると、成る程、ペレスの逮捕と、同(ハ)の捜索押収との間には、既に述べたように、時間的には約35分ないし60分の間隔があり場所的には、原審第4回公判調書中における証人石原金次の供述記載並びに前示原審第2回、第3回および第8回公判調書中における証人柳下勝美の各供述記載のほか、当裁判所の検証調書および当審第2回公判における証人吉良欣展の供述並びに当審で取り調べたシルクホテルのマツサージ、訪問客に関する案内カードおよびシルクホテルの貴重品、部屋鍵に関する案内カード等から窺われるようなシルクホテル5階の、なかば公開的な待合所と同ホテル7階の、宿泊客にとつては個人の城塞ともいうべき714号室との差異のほかに若干の隔りもあり、また若し同(ハ)の大麻たばこ七本がペレス独りのものであつたとするならば、いくらペレスが大麻取締法違反の現行犯人として逮捕されたとはいえ、否却つて逮捕されたればこそ、更らに捜索差押が予想されるというのに、わざわざ自ら司法警察員らを自己の投宿している同714号室に案内したということについては種々の見方があり得るであろうし、なおペレスが同室の洗面所で司法警察員らに対し同大麻たばこ7本は自分のものではなくて、被告人のものである旨述べていることなどからすると、同たばこに対する捜索押収が果して適法であつたか否かについては疑いの余地が全くないわけではないけれども、既に見て来たような本件捜査の端緒、被告人とペレスとの関係、殊に2人が飛行機の中で知り合い、その後行動を共にし、且つ同室もしていたこと、右のような関係から同たばこについても或るいは2人の共同所持ではないかとの疑いもないわけではないこと、ペレスの逮捕と同たばこの捜索差押との間には、時間的、場所的な距りがあるといつてもそれはさしたるものではなく、また逮捕後自ら司法警察員らを引続き自己と被告人の投宿している相部屋の右714号室に案内していること、同たばこの捜索差押後被告人も1時間20分ないし1時間45分位のうちには同室に帰つて来て本件で緊急逮捕されていることおよび本件が検挙が困難で、罪質もよくない大麻取締法違反の事案であることなどからすると、この大麻たばこ7本の捜索差押をもつて、直ちに刑事訴訟法第220条第1項第2号にいう「逮捕の現場」から時間的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできない。また、このように考えることが、前示最高裁判所大法廷の判決の趣旨に副うものであると解する。

 

関連:最判昭和36年6月7日 西成ヘロイン所持事件(教材134頁) 百選A4

(1) 憲法35条が右の如く捜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、捜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであって、刑訴220条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法35条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。

 もっとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであって、このことは、同条1項1号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従って、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であっても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。

 そして緊急逮捕の現場での捜索、差押は、当該逮捕の原由たる被疑事実に関する証拠物件を収集保全するためになされ、且つ、その目的の範囲内と認められるものである以上、同条1項後段のいわゆる「被疑者を逮捕する場合において必要があるとき」の要件に適合するものと解すべきである。

 ところで、本件捜索、差押の経緯に徴すると、麻薬取締官等四名は、昭和30年10月11日午後8時30分頃路上において職務質問により麻薬を所持していた瀬上ミツヱを現行犯として逮捕し、同人を連行の上麻薬の入手先である被疑者有馬喜市宅に同人を緊急逮捕すべく午後9時30分頃赴いたところ、同人が他出中であったが、帰宅次第逮捕する態勢にあった麻薬取締官等は、同人宅の捜索を開始し、第一審判決の判示第一の(一)の麻薬の包紙に関係ある雑誌及び同(二)の麻薬を押収し、捜索の殆んど終る頃同人が帰って来たので、午後9時50分頃同人を適式に緊急逮捕すると共に、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をとり、逮捕状が発せられていることが明らかである。

 してみると、本件は緊急逮捕の場合であり、また、捜索、差押は、緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的にはこれに接着し、場所的にも逮捕の現場と同一であるから、逮捕する際に逮捕の現場でなされたものというに妨げなく、右麻薬の捜索、差押は、緊急逮捕する場合の必要の限度内のものと認められるのであるから、右いずれの点からみても、違憲違法とする理由はないものといわなければならない。

 

(2) 鑑定書は、第1審第1回公判廷において、いずれも被告人及び弁護人がこれを証拠とすることに同意し、異議なく適法な証拠調を経たものであることは、右公判調書の記載によって明らかであるから、右各書面は、捜索、差押手続の違法であったかどうかにかかわらず証拠能力を有する。    

 

(コメント:近時は、違法収集証拠については、326条の相当性の要件を欠き、証拠能力が否定される余地があるとされるので、同意があれば違法収集証拠も必ず証拠能力を肯定されるという(2)の部分については、無視してよい)。

 

27 和光大学内ゲバ事件 (教材140頁、百選15)

「刑訴法220条1項2号によれば、捜査官は被疑者を逮捕する場合において必要があるときは逮捕の現場で捜索、差押え等の処分をすることができるところ、右の処分が逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索、差押えである場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である。」

 

28 福岡高判平5年3月8日 福岡覚せい剤事件 (教材143頁)

(1) 手を広げてとめた行為は適法

(2) 腕でかかえて立たせた行為は職務質問を継続する上で必要かつ相当な行為

(3) K子方の前の踊り場に同行した行為は、被告人らが移動した距離は約37・九メートルで、同行した場所も被告人がその直前に出てきたK子方の前の踊り場であったこと、しかも、被告人は城崎警部補に衝突して転倒した後は、格別反抗的な態度に出ることもなく、観念した様子であったこと、また、城崎警部補らが被告人を右踊り場に連れて行ったのは、当時雨が降っていたため、被告人らが立っていた○○鳥飼の北側通路西側出入口付近で職務質問を継続すれば、被告人が雨に濡れるだけでなく、清水巡査が拾って来たペーパーバッグ等の証拠品も雨によって汚損される恐れがあり、右証拠品を被告人に示すなどして職務質問を行うことは適当でないと考えられたこと、更に、被告人が城警部補に衝突するまでの前記事情に加え、この段階においては、清水巡査が、既に被告人の投げ捨てたぺーパーバッグを拾って来ており、その手触り等からして右バッグの中には覚せい剤が入っている疑いが相当強くなっていたことが認められ、右事情をも併せ考えると、城崎警部補らが被告人に対する職務質問を継続するために被告人を右踊り場まで同行したことが不相当な行為であったとはいえない。

(4) K子方に入った行為 ― 同警部らがK子方に入るに当たっては、K子に対し、中に入ってもいいかどうかの承諾を求めていること、他方、同女としても、引っ越して来たばかりで、多数の警察官が同女方前の踊り場に集まって被告人に対する職務質問を続けることは、近隣の人達への気兼ね等もあって、好ましくないと思い、寺崎警部の申し出を承諾していること、また、K子方のドアの鍵も同女自身が開けていること、右踊り場は○○鳥飼東側階段の出入口であって、そのような場所で多数の警察官らが被告人に職務質問をすること自体必ずしも適当であるとはいえないことが認められ、右各事実に照らすと、寺崎警部らが被告人に対する職務質問を続けるために、K子の承諾を得た上、被告人がその直前までいたK子方に入ったことが不相当な行為であったともいえない。

(5) K子方で、外で拾ったバッグを開披し、ポリ袋入り覚せい剤一袋を取り出した行為 ― 被告人の「勝手にしない。しょんなかたい。もう往生した」との発言を受けてしたものであって、一応被告人の承諾を得ていると評価できること、しかも、この段階においては、被告人に対する職務質問を開始した以後の経過からみて、被告人に対する覚せい剤所持の嫌疑はますます強くなっていたばかりか、右バッグの中に覚せい剤が隠匿されている蓋然性も高く、清水巡査らにおいて、右バッグ等を開披して被告人に質問する必要性も強かったこと、他方、同巡査が右バッグ等を開披した行為自体は、被告人のプライバシーをさほど侵害するような性質のものではなかったことを併せ考えると、同巡査が行った右所持品検査が不相当なものであったともいえない。

(6) K子方の捜索 ― 任意の承諾はない(令状なく家を捜索する場合には完全な自由意志による承諾があったかについて慎重に判断する必要がある)。220条による捜索としても正当化されない。

なぜなら、@本件のように、職務質問を継続する必要から、被疑者以外の者の住居内に、その居住者の承諾を得た上で場所を移動し、同所で職務質問を実施した後被疑者を逮捕したような場合には、逮捕に基づき捜索できる場所も自ずと限定されると解さざるを得ないからである。Aまた、更に、K子方に対して捜索がなされるに至った経過からすれば、同女方の捜索は、被告人が投げ捨てたペーパーバッグの中から発見された覚せい剤所持の被疑事実に関連する証拠の収集という観点から行われたものではなく、被告人が既に発見された覚せい剤以外にもK子方に覚せい剤を隠匿しているのではないかとの疑いから、専らその発見を目的として実施されていることが明らかである。

そして、右二つの覚せい剤の所持が刑法的には一罪を構成するとしても、訴訟法的には別個の事実として考えるべきであって、一方の覚せい剤所持の被疑事実に基づく捜索を利用して、専ら他方の被疑事実の証拠の発見を目的とすることは、令状主義に反し許されないと解すべきである。

(7) 証拠能力は肯定できる。

 

解説:1、相当説からは、逮捕の場所とは、広く証拠物が存在する蓋然性が認められる範囲、あるいは、令状を請求すれば許されるであろう関連性のある範囲(同一の管理権)とされる。2、時間については、着手前であってもよいとするのが判例であるが、相当説からも少なくとも着手時には被疑者が現在することが必要と解すべきである。3、220条の捜索は、被告人の身体、物、又は住居については、(「証拠物又は没収すべき物」<99条>を発見するため)「捜索の必要があること」が要件となり(222条・102条)、第三者の身体・物・又は住居については「捜索の必要性があり」、かつ「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある」ことが要件となる。第三者の利益はこのように保護されているのだから、福岡高判のような要件を付け加える必要性はない。4、本件覚せい剤が捜索差押の範囲に含まれるかが問題となるが、営利の目的や、覚せい剤の認識(故意)を立証する上で重要な証拠となりうるのであり、K子方を捜索して見つかった覚せい剤は、バッグから見つかった覚せい剤の所持罪との関係で、証拠物として差押の対象となると考えるべきである。5、そうである以上、本件捜索差押は、もっぱら別罪のためになされたものとは評価できず、別件捜索差押にあたらない。

私見・Ogi:百選解説に全面的に賛成。福岡高判は意味不明。本件は明らかに適法だ。

 

外で現行犯人逮捕したと想定した場合、K子宅を220条に基づき捜索できるか?<架空事例>

@K子は被疑者の愛人であり、A被疑者が直前までK子宅にいたために、K子宅に覚せい剤事件の証拠が存在する蓋然性が強く、BしかもK子が逮捕行為を目撃しており直ちに証拠隠滅を行う蓋然性が著しく強い、という事情の下では、K子宅の捜索差押えは、220条の差押えと同視できるものとして<和光大学内ゲバ事件の考えをやや広げる>、適法となるのではないか。(Ogiも同意)

 

29 別件捜索差押 広島高判昭和56年11月26日 呉給料紛失仮装事件 (教材120頁)

被告人に対するモーターボート競走法違反(のみ行為の相手方となつた)被疑事件につき、警察において捜索令状を得て被告人方を捜索した際、被告人が所持していた預金通帳を発見し、これを右被疑事実を立証する物とは認めなかつたのに、その場で被告人より任意提出させて領置した場合において、同事件の多数関係者のうち特に被告人方だけを捜索する必要性があつたかどうかすこぶる疑問であり、被告人が同事件につき逮捕、勾留されたが起訴されなかつたことなどを併せ考えると、右の捜索は、警察において、本件業務上横領事件の証拠を発見するため、殊更被告人方を捜索する必要に乏しい別件の軽微なモーターボート競走法違反事件を利用し、捜索令状を得て右捜索をしたもので違法の疑いが強いといわざるを得ないが、捜索令状に基づく捜索の場に被疑者が居合わせた場合、差し押えるべき物を被疑者が所持している疑いがある以上、限度を超えない限り被疑者の所持品検査を行うことができることを考慮すると、本件捜索が違法の疑いが強く、右預金通帳等の押収が右捜索の際に行われたものであることを考慮しても、その押収手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとまでいえず、その証拠能力を否定すべきものではない。

 

30 強制採尿 最判昭和55年10月23日 江南警察署強制採尿事件 (教材153頁)

<前半-See百選2事件>

3 次に、強制採尿手続の違法の有無についてみる。

 (一) 記録によれば、強制採尿令状発付請求に当たっては、職務質問開始から午後一時すぎころまでの被告人の動静を明らかにする資料が疎明資料として提出されたものと推認することができる。

 そうすると、本件の強制採尿令状は、被告人を本件現場に留め置く措置が違法とされるほど長期化する前に収集された疎明資料に基づき発付されたものと認められ、その発付手続に違法があるとはいえない。長期化する後だったら結論はかわったかもしれない―Ogi

 (二) @身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、A採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、B必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも、明らかである。

 本件において、@被告人を任意に採尿に適する場所まで同行することが事実上不可能であったことは、前記のとおりであり、B連行のために必要限度を超えて被疑者を拘束したり有形力を加えたものとはみられない。また、前記病院における強制採尿手続にも、違法と目すべき点は見当たらない。

 したがって、本件強制採尿手続自体に違法はないというべきである。

 

 4 以上検討したところによると、本件強制採尿手続に先行する職務質問及び被告人の本件現場への留め置きという手続には違法があるといわなければならないが、その違法自体は、いまだ重大なものとはいえないし、本件強制採尿手続自体には違法な点はないことからすれば、職務質問開始から強制採尿手続に至る一連の手続を全体としてみた場合に、その手続全体を違法と評価し、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められない。

 5 そうであるとすると、被告人から採取された尿に関する鑑定書の証拠能力を肯定することができ、これと同旨の原判断は、結論において正当である。

 

Ogi:(1)条件付捜索差押え令状は、明文にないものであるが、条件をつけることにより、処分の相手方に有利となるのであり、人権保障にむしろ資するのであるから、強制処分法定主義に反するということはない。

(2)採血については、実務において鑑定処分許可状と検証許可状が併用されるという運用が未だになされている。これは、血については、身体の構成部分であり、物とはいいがたい、というところにその根拠があるであろう。<尿は老廃物であり、特段の価値はない>

コメント:私見は、採血についても、条件付捜索差押え令状でよいと考える。法は、令状の種類を、対象物が無価値かどうかで区別するということはしておらず、むしろ対象物との関係でどのような性質の作用であるのかによって区別しているからである。占有を取得するという作用なのだから、捜索差押え令状と考えるべきである。

 

のみこんだものをレントゲンで撮影し、差押える場合

レントゲン撮影を捜索令状で行うことができるかであるが、身体の内部への侵襲は伴わないので、条件付捜索差押え令状で「必要な処分」として行うことができると考える。(学説では、身体への影響が大きく、鑑定としての身体検査令状と捜索差押え令状とを併用するべきであるとの意見が多数をしめる―白鳥1版122頁)。

下剤の使用

人道上許されないというのが、多数説(白鳥122頁)。ただ、緊急やむをえない場合<体に吸収されてしまうおそれがあるような場合>に、医学上安全な方法で用いるのであれば、よいのではないか?(私見)

 

31 採尿令状による連行 最判平成6年9月16日(=百選2) 会津若松採尿事件 (教材156頁)

身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも、明らかである。

 

解説:@令状の効力説、A必要な処分説、B令状記載説、C違法説などがある。

Ogi:違法として、身柄拘束令状を必要とするのは、不当。なぜなら、身柄拘束令状と本件の身柄連行とは、目的も、期間・方法・場所も、異にしているから。

 

32 呼気検査と憲法38条1項 最判平成9年1月30日

憲法38条1項は、刑事上責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきところ、右検査は、酒気を帯びて車両等を運転することの防止を目的として運転者らから呼気を採取してアルコール保有の程度を調査するものであって、その供述を得ようとするものではないから、右検査を拒んだ者を処罰する右道路交通法の規定は、憲法38条1項に違反するものではない。

 

33 電話検証 東京高判平成4年10月15日 (教材168頁)

 

cf.最高裁平成11年12月16日決定

 電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。そして、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。

 3 そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存していなかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。

(一) 電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。

(二) 裁判官は、捜査機関から提出される資料により、当該電話傍受が前記の要件を満たすか否かを事前に審査することが可能である。

(三) 検証許可状の「検証すべき場所若しくは物」(刑訴法219条1項)の記載に当たり、傍受すべき通話、傍受の対象となる電話回線、傍受実施の方法及び場所、傍受ができる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という要請を相当程度満たすことができる。

 (四) 身体検査令状に関する同法218条5項は、その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、電話傍受の実施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない旨を検証の条件として付することができる。

 (五) なお、捜査機関において、電話傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するかどうかが明らかでない通話について、その判断に必要な限度で、当該電話の傍受をすることは、同法129条所定の「必要な処分」に含まれると解し得る。

 もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとまで解するのは相当ではない。

 

Ogi:通信傍受法に列挙されていない犯罪については、検証令状による通信傍受が依然問題となりうる。

 

34 捜索・差押時の写真撮影と準抗告 最高裁平成2年6月27日 令状外写真撮影事件 (208頁)

本件においては、裁判官の発付した捜索差押許可状に基づき、司法警察員が申立人居室において捜索差押をするに際して、右許可状記載の「差し押えるべき物」に該当しない印鑑、ポケット・ティッシュペーパー、電動ひげそり機、洋服ダンス内の背広について写真を撮影したというのであるが、右の写真撮影は、それ自体としては検証としての性質を有すると解されるから、刑訴法430条2項の準抗告の対象となる「押収に関する処分」には当たらないというべきである。したがって、その撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める準抗告を申し立てることは不適法であると解するのが相当である。

藤島補足意見:

 一 検証とは、視覚、聴覚等五感の働きによって物、場所、人等の存在、形状、作用等を認識する作用であり、検証に際して行われる写真撮影は、検証の結果をフィルムに収録する行為といえよう。このような行為を捜査機関が行う場合には原則として令状を必要とする(刑訴法218条1項)。したがって、人の住居に立ち入って捜索差押許可状を執行するに際し、あわせてその現場において写真撮影を行うためには、原則として検証許可状が必要となる。

 しかし、検証許可状を請求することなく、捜索差押手続の適法性を担保するためその執行状況を写真に撮影し、あるいは、差押物件の証拠価値を保存するため発見された場所、状態においてその物を写真に撮影することが、捜査の実務上一般的に行われている。このような撮影もまた検証と解されるべきものであるが、捜索差押に付随するため、捜索差押許可状により許容されている行為であると考えられる。

 二 これに対して、本件のように、捜索差押許可状に明記されている物件以外の物を撮影した場合には、捜索差押手続に付随した検証行為とはいえないので、本来は検証許可状を必要とするものであり、その令状なしに写真撮影したことは違法な検証行為といわざるを得ないが、検証について刑訴法430条の準抗告の規定の適用がないことは条文上明らかであって、この点に関する準抗告は現行刑訴法上認められていないものと解するほかない。

 三 もっとも、物の外形のみの写真撮影に止まらず、例えば、捜索差押が行われている現場で捜索差押許可状に明記された物件以外の日記帳の内容を逐一撮影し、収賄先献金先等を記載したメモを撮影するなど、捜査の帰すうに重大な影響を及ぼす可能性のある、あるいは重大事件の捜査の端緒となるような文書の内容等について、検証許可状なくして写真撮影が行われたような場合を考えると、検証には刑訴法430条の準抗告の規定の適用がないということでこのような行為を容認してしまうことは、適正な刑事手続を確保するという観点から問題があるように思われる。

 すなわち、このような場合、実質的にみれば、捜査機関が日記帳又はメモを差し押さえてその内容を自由に検討できる状態に置いているのと同じであるから、写真撮影という手段によって実質的に日記帳又はメモが差し押さえられたものと観念し、これを「押収に関する処分」として刑訴法430条の準抗告の対象とし、同法426条2項によりネガ及び写真の廃棄又は引渡を命ずることができるとする考え方もあり得よう

 

参照:426条2項:

 

cf.徳島地判平成10年9月11日 写真撮影が違法とされた例―国賠

一般に、写真撮影は、本来、物、場所又は人について、その存在や状態等を五官の作用により認識する処分である検証にあたり、強制処分として写真撮影を行うに際しては検証令状が必要と解されるところ、捜索差押に伴う写真撮影については、差押の対象となる証拠物の現状やその存在している状況を保存する目的でなされる場合、及び、捜索差押手続の適法性を担保する目的でなされる場合には、捜索差押に付随する処分として、検証令状なくして許されると解すべきである。もっとも、被撮影者の意に反した写真撮影が、第三者に自らの住居の内部や所持品の内容などを見られたくない、知られたくないというプライバシーの利益を侵害するものであることからすると、捜索差押に付随する写真撮影であるとしても、右のような目的を達成するのに必要な範囲において認められるのであって、これを逸脱した場合には違法となることはいうまでもない。

 

そこで、本件撮影についてみるに、@(許可状4通を原告に呈示している状況等)A(押収品を確認する原告の様子・肖像)及びB(捜索の際の原告の立会状況を撮影したもの)については、捜索差押手続の適法性を担保する目的でなされたものと認められる。右のような撮影の場合、性質上、被呈示者、立会人の肖像が写されるのはやむをえないのであって、仮に全身が撮影されたとしても、直ちに必要な範囲を逸脱したということはできず、令状呈示状況の撮影であることにかこつけて、ことさら肖像だけを撮影したのであればともかく、本件においては原告の供述によってもそのような事実は認められないことからすると、必要な範囲を逸脱した、違法な撮影とまでは言うことはできない。それ故、右撮影は適法である。

 次に、C(捜索している状況及び立会いの写真)、D(大学ノートを押収する際の状況の写真)、等の撮影は、捜索もしくは差押手続の適法性を担保する目的でなされたものと認められ(なお、Dについては証拠物の現状を保全する目的でなされたものとも認められる。)、その内容や枚数からしても必要な範囲を逸脱したものとまでは認められない。捜索手続の適法性を担保、証明するためには、令状呈示等法律が定めている要件のほか、捜索を開始するときの状況やその後の捜索状況についても撮影しておく必要性は否定することはできず、原告が主張するように、捜索方法の適法性の担保として許される写真撮影が令状等の呈示に限定されるものではない。そして、本件においては、原告が必ずしも捜索に協力的でなかったことから、その必要性は特に強かったと認められるのである

 

 しかしながら、Eノートの写真撮影(原告の大阪在住の友人の住所が書かれていたページを開けて接写)、F本棚を接写(天皇制に関する書籍等が置かれていたが、ことさら本棚の本の題名等が写るように、本棚もそれぞれ接写された。)、G銀行通帳の接写、H壊れた目覚まし時計を取り出し、捜査員がそれを耳にあてているところが撮影、Iスケッチブックの撮影(高校時代、原告が好意を寄せていた先輩の名前を鉛筆書きされたページが接写された。)については、いずれも押収品を撮影したものではなく、撮影の必要性も明らかでない上、その撮影態様を考慮すると、執行方法の適法性を担保する目的で行われたと認めることはできない。それ故、右撮影については違法な写真撮影というべきである。

以上のとおり、別途検証令状を得ることなく行った、スケッチブックの写真撮影ついては、違法であり、それ以外の写真撮影については、捜索差押に付随する処分として、適法である。

 なお、念のため、付言しておくに、右のような違法な写真撮影が認められるとしても、本件捜索差押処分まで違法となるものではない。

 

のみ行為の取引状況に関する記号や数字等が鉛筆でなぐりがきされている場合に、競馬法違反(のみ行為)の捜索差押え令状で、証拠を保全するために、写真を撮影することができるか 「実例刑訴T」192頁

@.かかる写真撮影は、差押えと同視できるのであり、差押えと同様な手続きによって、行うことができる<Ogi>。

A.差押えが許されるのだから、それより法益侵害の程度の小さい検証も許されると考えるべきである<実例刑訴の立場>

B.許されないとする立場(任意の同意を求める)

 

@の立場は、写真撮影と差押えの概念の区別を不明確にするものであり、賛成できない。

Aの立場は、壁を差押えず、壁を差押えた物件として掲げない。しかし、差押え目的物を差押えないで記録内容を写真撮影するという執行方法は、差押えの実質的な対象が手続き上明らかにならず許されるべきでないとの批判がある(高田昭正・法学セミナー429号127頁)

確かに、目的物を差押えていないのに、差押えに付随する写真撮影ができるというのは、わかりにくい。

 

そこで、A説をやや修正して、壁を記録上は、差押えたことにして、写真を撮影し、撮影終了後に差押え物(壁)を返還したことにすればよいと考える。こうすれば、目的物も記録上明らかにされ、手続きの適正の確保に資するのではないか。

 

35 接見交通 若松事件 最判平成3年5月31日

(1) 本件の一般的指定の適否に関して、原審が捜査機関の内部的な事務連絡文書であると解して、それ自体は弁護人である上告人又は被疑者に対し何ら法的な効力を与えるものでなく、違法ではないとした判断は、正当として是認することができる。

(2)捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出を受けたときは、速やかに当該被疑者についての取調状況等を調査して、右のような接見等の日時等を指定する要件が存在するか否かを判断し、適切な措置を採るべきであるが、弁護人等から接見等の申出を受けた者が接見等の日時等の指定につき権限のある捜査官(以下「権限のある捜査官」という。)でないため右の判断ができないときは、権限のある捜査官に対し右の申出のあったことを連絡し、その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり、こうした手続を要することにより弁護人等が待機することになり又はそれだけ接見が遅れることがあったとしても、それが合理的な範囲内にとどまる限り、許容されているものと解するのが相当である。

 

36 接見交通 浅井事件 最判平成3年5月10日 <国賠>

(1)接見指定の要件

接見交通権が、憲法上の保障に由来するものであることにかんがみれば、刑訴法39条3項の・・・指定は、あくまで必要やむをえない例外的な措置であって、・・・捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申し出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければいけないのであり、これを認めると捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採るべきである(最判昭和53年7月10日―杉山事件)。

そして、右にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである。

 

(2)接見指定の際の義務

右のように、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは捜査機関の現在の取調べ等の進行に支障が生じたり又は間近い時に確実に予定している取調べ等の開始が妨げられるおそれがあることが判明した場合には、捜査機関は、直ちに接見等を認めることなく、弁護人等と協議のうえ、右取調べ等の終了予定後における接見等の日時等を指定することができるのであるが、その場合でも、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができ、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるように配慮すべきである。そのため、弁護人等から接見等の申出を受けた捜査機関は、直ちに、当該被疑者について申出時において現に実施している取調べ等の状況又はそれに間近い時における取調べ等の予定の有無を確認して具体的指定要件の存否を判断し、右合理的な接見等の時間との関連で、弁護人等の申出の日時等を認めることができないときは、改めて接見等の日時等を指定してこれを弁護人等に告知する義務があるというべきである。

 

(3)接見指定の方法

そして、捜査機関が右日時等を指定する際いかなる方法を採るかは、その合理的裁量にゆだねられているものと解すべきであるから、電話などの口頭による指定をすることはもちろん、弁護人等に対する書面(いわゆる接見指定書)の交付による方法も許されるものというべきであるが、その方法が著しく合理性を欠き、弁護人等と被疑者との迅速かつ円滑な接見交通が害される結果になるようなときには、それは違法なものとして許されないことはいうまでもない。

 

(4)本件の接見指定の適法性

右接見等の申出時において、それから間近い時に取調べが確実に予定されていたものと評価することができ、したがって、被上告人の接見等を認めると右の取調べに影響し、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるといえないわけでなく、K検察官が接見等の日時等を指定する要件が存在するものとして被上告人に対し右の日時等を指定しようとした点はそれ自体違法と断定することができない。

 しかしながら、K検察官は、魚津警察署の警察官から電話による指示を求められた際、同警察官に被上告人側の希望する接見等の日時等を聴取させるなどして同人との時間調整の必要を判断し、また必要と判断したときでも弁護人等の迅速かつ円滑な接見交通を害しないような方法により接見等の日時等を指定する義務があるところ、こうした点で被上告人と協議する姿勢を示すことなく、ただ一方的に、当時往復に約2時間を要するほど離れている富山地方検察庁に接見指定書を取りに来させてほしい旨を伝言して右接見等の日時等を指定しようとせず、かつ、刑訴法39条1項により弁護人等に認められている被疑者に対する物の授受について裁判所の接見禁止決定の解除決定を得ない限り認められないとしたものであるから、同検察官の措置は、その指定の方法等において著しく合理性を欠く違法なものであり、これが捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして、同検察官に過失があることは明らかである。

 

坂上補足意見: 捜査機関が、弁護人等の接見申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であっても、その日の取調べを終了するまで続けることなく一段落した時点で右接見を認めても、捜査の中断による支障が顕著なものにならない場合がないとはいえないと思われるし、また、間近い時に取調べをする確実な予定をしているときであっても、その予定開始時刻を若干遅らせることが常に捜査の中断による支障が顕著な場合に結びつくとは限らないものと考える。したがって、捜査機関は、接見等の日時等を指定する要件の存否を判断する際には、単に被疑者の取調状況から形式的に即断することなく、右のような措置が可能かどうかについて十分検討を加える必要があり、その指定権の行使は条理に適ったものでなければならない。

 

疑問:坂上補足意見が要求するような顕著な支障が生じるかの判断が最高裁では充分にされていないようだが、答案で場合わけをするべきか。Ogi:するべき。

疑問:接見指定の要件として「防御の不当な制限にわたらない」ということをあげるべきなのか。Ogi:あげるべき。

 

最判平12年6月13日 初回の接見 平12年度重版-刑訴1

(1) 右のように、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは捜査に顕著な支障が生じるときは、捜査機関は、弁護人等と協議の上、接見指定をすることができるのであるが、その場合でも、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならないのであって(刑訴法39条3項ただし書)、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。

 とりわけ、弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。したがって、右のような接見の申出を受けた捜査機関としては、前記の接見指定の要件が具備された場合でも、その指定に当たっては、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうか検討し、これが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後において、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきであり、このような場合に、被疑者の取調べを理由として右時点での接見を拒否するような指定をし、被疑者と弁護人となろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものといわなければならない。

(2) 本件接見指定の適法性

本件申出時において、現に取調べ中か又は間近い時に取調べが確実に予定されていたものと評価することができ、したがって、上告人内田と上告人市川との自由な接見を認めると、右の取調べに影響し、捜査の中断等による支障が顕著な場合に当たるといえないわけではなく、山口課長が接見指定をしようとしたこと自体は、直ちに違法と断定することはできない。

しかしながら、前記事実関係によれば、本件申出は、上告人市川の逮捕直後に同上告人の依頼により弁護人となろうとする上告人内田からされた初めての接見の申出であり、それが弁護人の選任を目的とするものであったことは明らかであって、上告人市川が即時又は近接した時点において短時間でも上告人内田と接見する必要性が大きかったというべきである。しかも、上告人市川は、救護連絡センターの弁護士を選任する意思を明らかにし、同センターの弁護士である上告人内田が現に築地署に赴いて接見の申出をしていたのであるから、比較的短時間取調べを中断し、又は夕食前の取調べの終了を少し早め、若しくは夕食後の取調べの開始を少し遅らせることによって、右目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができたものと考えられる。 他方、上告人市川の取調べを担当していた近藤巡査部長は、同上告人の夕食終了前、逮捕現場での実況見分の応援の依頼を受けて、夕食後の取調べについて他の捜査員の応援を求める等必要な手当てを何らしないまま、にわかに右実況見分の応援に赴き、そのため、夕食終了後も同上告人の取調べは行われず、同巡査部長が築地署に戻った後も、同上告人の取調べは全く行われないまま中止されたというのであって、このような同上告人に対する取調べの経過に照らすと、取調べを短時間中断し、夕食前の取調べの終了を少し早め、又は夕食後の取調べの開始を少し遅らせて、接見時間をやり繰りすることにより、捜査への支障が顕著なものになったとはいえないというべきである。原判決は、上告人市川の態度いかんによっては夕食後同上告人に実況見分への立会いを求める可能性があり、場合によっては同上告人の取調べが留置人の就寝時間に食い込む可能性があったことなどを指摘するが、そのような可能性があったというだけでは、現に築地署に赴いて接見を申し出ている上告人内田と上告人市川との当日の接見を全面的に拒否しなければならないような顕著な捜査上の支障があったとはいえない 

そして、前記事実関係によれば、午後4時45分ころには上告人市川の写真撮影等の手続が終了して取調べが開始され、山口課長は、午後5時ころまでには、上告人市川が救援連絡センターの弁護士を弁護人に選任する意向であることを知っており、同センターからの連絡によって上告人内田が同センターの弁護士であることを容易に確認し得たものということができる。また、山口課長は、そのころには、森岡課長との協議により、上告人市川の取調べを一時中断して夕食を取らせることを予定していたものである。 そうすると、山口課長は、上告人内田が午後4時35分ころから午後5時45分ころまでの間継続して接見の申出をしていたのであるから、午後5時ころ以降、同上告人と協議して希望する接見の時間を聴取するなどし、必要に応じて時間を指定した上、即時に上告人内田を上告人市川に接見させるか、又は、取調べが事実上中断する夕食時間の開始と終了の時刻を見計らい(午後5時45分ころまでには、上告人市川の夕食時間が始まって相当時間が経過していたのであるから、その終了時刻を予測することは可能であったと考えられる。)、夕食前若しくは遅くとも夕食後の接見させるべき義務があったというのが相当である。

 ところが、山口課長は、上告人内田と協議する姿勢を示すことなく、午後五時ころ以降も接見指定をしないまま同上告人を待機させた上、午後5時45分ころに至って一方的に接見の日時を翌日に指定したものであり、他に特段の事情のうかがわれない本件においては、右の措置は、上告人市川が防御の準備をする権利を不当に制限したものであって、刑訴法39条3項に違反するものというべきである。

 

関連:最判平成11年3月24日 憲法39条3項の合憲性

一 刑訴法39条3項本文の規定と憲法34条前段

 所論は、要するに、身体の拘束を受けている被疑者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見等を検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)が一方的に制限することを認める刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段に違反するというのである。

 1 憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定める。この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。

 刑訴法39条1項が、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第31条第2項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として、被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法34条の右の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる(最高裁昭53年7月10日判決<杉山判決>参照)。

 2 もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではないというべきである。

 3 ところで、刑訴法39条は、前記のように1項において接見交通権を規定する一方、3項本文において、「検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」と規定し、接見交通権の行使につき捜査機関が制限を加えることを認めている。この規定は、刑訴法において身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること(198条1項)、被疑者の身体の拘束については刑訴法上最大でも23日間(内乱罪等に当たる事件については28日間)という厳格な時間的制約があること(203条から205条まで、208条、208条の2参照)などにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである。そして、刑訴法39条3項ただし書は、「但し、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」と規定し、捜査機関のする右の接見等の日時等の指定は飽くまで必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない旨を明らかにしている。

 このような刑訴法39条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条3項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである(前掲昭和53年7月10日参照)。

 なお、所論は、憲法38条1項が何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を定めていることを根拠に、逮捕、勾留中の被疑者には捜査機関による取調べを受忍する義務はなく、刑訴法198条1項ただし書の規定は、それが逮捕、勾留中の被疑者に対し取調べ受忍義務を定めているとすると違憲であって、被疑者が望むならいつでも取調べを中断しなければならないから、被疑者の取調べは接見交通権の行使を制限する理由にはおよそならないという。しかし、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかであるから、この点についての所論は、前提を欠き、採用することができない。

 4 以上のとおり、刑訴法は、身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることを認めているが、被疑者の身体の拘束を最大でも23日間(又は28日間)に制限しているのであり、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る必要があるところ、(一) 刑訴法39条3項本文の予定している接見等の制限は、弁護人等からされた接見等の申出を全面的に拒むことを許すものではなく、単に接見等の日時を弁護人等の申出とは別の日時とするか、接見等の時間を申出より短縮させることができるものにすぎず、同項が接見交通権を制約する程度は低いというべきである。また、前記のとおり、(二) 捜査機関において接見等の指定ができるのは、弁護人等から接見等の申出を受けた時に現に捜査機関において被疑者を取調べ中である場合などのように、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、しかも、(三) 右要件を具備する場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないのである。このような点からみれば、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではないというべきである。

 なお、刑訴法39条3項本文が被疑者側と対立する関係にある捜査機関に接見等の指定の権限を付与している点も、刑訴法430条1項及び2項が、捜査機関のした39条3項の処分に不服がある者は、裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる旨を定め、捜査機関のする接見等の制限に対し、簡易迅速な司法審査の道を開いていることを考慮すると、そのことによって39条3項本文が違憲であるということはできない。

 5 以上のとおりであるから、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段に違反するものではない。論旨は採用することができない。

 

二 刑訴法39条3項本文の規定と憲法37条3項

 所論は、要するに、憲法37条3項の規定は、公訴提起後の被告人のみならず、公訴提起前の被疑者も対象に含めているとし、それを前提に、刑訴法39条3項本文の規定は憲法37条3項に違反するというのである。

 しかし、憲法37条3項は「刑事被告人」という言葉を用いていること、同条1項及び2項は公訴提起後の被告人の権利について定めていることが明らかであり、憲法37条は全体として公訴提起後の被告人の権利について規定していると解されることなどからみて、同条3項も公訴提起後の被告人に関する規定であって、これが公訴提起前の被疑者についても適用されるものと解する余地はない。論旨は、独自の見解を前提として違憲をいうものであって、採用することができない。

 

三 刑訴法39条3項本文の規定と憲法38条1項

 所論は、要するに、憲法38条1項は、不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するため、身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権をも保障していると解されるとし、それを前提に、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法38条1項に違反するというのである。

 しかし、憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するためどのような措置が採られるべきかは、基本的には捜査の実状等を踏まえた上での立法政策の問題に帰するものというべきであり、憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止の定めから身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権の保障が当然に導き出されるとはいえない。論旨は、独自の見解を前提として違憲をいうものであって、採用することができない。

 

37 任意同行中の弁護人との面会 福岡高判平成5年11月16日

 被疑者の弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)は、当然のことながら、その弁護活動の一環として、何時でも自由に被疑者に面会することができる。その理は、被疑者が任意同行に引き続いて捜査機関から取調べを受けている場合においても、基本的に変わるところはないと解するのが相当であるが、弁護人等は、任意取調べ中の被疑者と直接連絡を取ることができないから、取調べに当たる捜査機関としては、弁護人等から右被疑者に対する面会の申出があつた場合には、弁護人等と面会時間の調整が整うなど特段の事情がない限り、取調べを中断して、その旨を被疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置を執るべきである。任意捜査の性格上、捜査機関が、社会通念上相当と認められる限度を超えて、被疑者に対する右伝達を遅らせ又は伝達後被疑者の行動の自由に制約を加えたときは、当該捜査機関の行為は、弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法と評され、国家賠償法1条1項の規定による損害賠償の対象となるものと解される。

 

38 起訴後の余罪捜査と接見指定 茨城県土木部汚職事件 最高裁昭和55年4月28日

同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の逮捕、勾留とが競合している場合、検察官等は、被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り、刑訴法39条3項の接見等の指定権を行使することができるものと解すべき(である。)

 

コメント:「被告事件について」としか判決文には書かれていないが、「被偽事件について防御権の不当な制限にわたらない」ということも当然の前提とされている<本判決の調査官解説より>。

 

関連:最判昭和41年7月26日

およそ、公訴の提起後は、余罪について捜査の必要がある場合であっても、検察官等は、被告事件の弁護人または弁護人となろうとする者に対し、同39条3項の指定権を行使しえないものと解すべきであり、検察官等がそのような権限があるものと誤解して、同条1項の接見等を拒否した場合、その処分に不服がある者は、同430条により準抗告を申し立てうるものと解するのを相当とする。

注意:余罪について身柄拘束がないことが前提となる。

 

関連:最判平成13年2月7日

「同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の勾留が競合している場合、検察官は、被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り、被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても、同法39条3項の接見等の指定権を行使することができる」

 

接見交通権の濫用(「実例刑訴T」178頁)

公安事件や、組織的背景がある事件においては、捜査を妨害する意図や、組織の上位者等に刑事責任が及ばないように組織防衛を図るために被疑者に対してさまざまな圧力を加えるなどの意図のもとに、組織などから依頼を受けた弁護士が「弁護人となろうとする者」であるとして、次々と、かわるがわる被疑者に接見するという方法がとられてきた。

しかし、これらは、弁護人の数を3人に制限する規則27条の潜脱であり、許されない。

 

その他の重要判例

勾留延長の要件 最判37年7月3日 「やむを得ない事由」

「やむを得ない事由があると認めるとき」とは、事件の複雑困難(被疑者もしくは被疑事実多数のほか、計算複雑、被疑者関係人らの供述又はその他の証拠のくいちがいが少からず、あるいは取調を必要と見込まれる関係人、証拠物等多数の場合等)、あるいは証拠蒐集の遅延若しくは困難(重要と思料される参考人の病気、旅行、所在不明もしくは鑑定等に多くの日時を要すること)等により勾留期間を延長して更に取調をするのでなければ起訴もしくは不起訴の決定をすることが困難な場合をいうものと解するのが相当である(なお、この「やむを得ない事由」の存否の判断には当該事件と牽連ある他の事件との関係も相当な限度で考慮にいれることを妨げるものではない)

※国賠についての判示については大事でないので付録へ。

 

被告人取調 秋田スリ事件 最判昭和36年11月21日 (教材212頁)

(なお、刑訴197条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法198条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく、また、勾留中の取調べであるのゆえをもって、直ちにその供述が強制されたものであるということもできない。)

コメント: (1)判例は、任意であれば、197条により被告人取調べも許されるが、なるべき避けるべきという。事案としては、第一回高判期日前であり、かつ、被告人から申し出があって取調がなされたという事情があったようでありその結論も妥当である(第一回公判期日後については公判中心主義との関連から被告人取調べを避けるべきとの要請がさらに強くなる)。

ただ、新たな要件は加えていないので、比較的緩やかに被告人取調を認める立場と解されている。

 これに対して学説から、「被告人が明示的に権利を放棄しない限り弁護人の立会いを必要的とすべき」「被告人が自ら供述を申し出たかあるいは拒否できることを充分に知った上で取調に応じたことが必要」「第一回公判期日後は許すべきでない」など、批判がたくさんある。

 

関連:起訴されている被告人を身柄拘束のある被疑事件について取り調べる場合

(A説)まず、取調受忍義務を肯定するべきである。もっとも、被告事件の防御の不当な制限にわたらないことを必要とすべきである。(∵接見指定についての最高裁判例の考え方(最決55年4月28日)を類推する -田口「基本論点79頁」は、仮に取調受忍義務肯定説に立つとした場合、(A説)のような結論となるべきとする)

 

(B説)取調受忍義務を否定する立場からどうなるのかは、私には不明である。被告事件の防御の利益については、任意捜査の相当性の要件を判断する際の一要素として考慮すれば足りるのではなかろうか。

 

西成覚せい剤事件 大阪高判平成4年1月30日(教材93頁)

事案:ほとんどその氏名、住所をきいただけで、いきなりパトカーに押し込み西成署に連行した。

◆警察官が実力を行使して被疑者をその意思に反して警察署に同行した上で、所持品の提出や腕まくりをさせ注射器や注射痕を発見し、捜索差押許可状請求の準備等をする間同人が退去しようとするのを実力で阻止し、その後発付を得た捜索差押許可状を示して、同人に尿を提出させ、これを押収したという本件の採尿手続(判文参照)は、重大な違法性を帯び、右尿についての鑑定書、捜索差押調書等の証拠能力は認められない。

◆違法に収集された被疑者の尿に関する鑑定書等の証拠に基づいて発付された逮捕状により同人を逮捕した場合であつても、警察官が同人を警察署に引致した後に同人から発見・押収した覚せい剤及び同人から新たに任意提出を受けた尿に関する鑑定書等の証拠能力は、右覚せい剤の発見等は偶然であつたと認められるなどの本件事情の下では、未だ否定されない。

 

第一京浜職務質問事件 最決平成7年5月30日 (教材27頁)車のシートを前後に動かすなど丹念に車内を調べた事案において捜査が違法であると判断されたが、証拠排除はされなかった事例

 一 原判決の認定によれば、本件捜査の経過は、次のとおりである。

 1 平成5年3月11日午前3時10分ころ、同僚とともにパトカーで警ら中の警視庁三田警察署道下敏明巡査は、東京都港区内の国道上で、信号が青色に変わったのに発進しない普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を認め、運転者が寝ているか酒を飲んでいるのではないかという疑いを持ち、パトカーの赤色灯を点灯した上、後方からマイクで停止を呼び掛けた。すると、本件自動車がその直後に発進したため、道下巡査らが、サイレンを鳴らし、マイクで停止を求めながら追跡したところ、本件自動車は、約2・7キロメートルにわたって走行した後停止した。

 2 道下巡査が、本件自動車を運転していた被告人に対し職務質問を開始したところ、被告人が免許証を携帯していないことが分かり、さらに、照会の結果被告人に覚せい剤の前歴5件を含む九件の前歴のあることが判明した。そして、道下巡査は、被告人のしゃべり方が普通と異なっていたことや、停止を求められながら逃走したことなども考え合わせて、覚せい剤所持の嫌疑を抱き、被告人に対し約20分間にわたり所持品や本件自動車内を調べたいなどと説得したものの、被告人がこれに応じようとしなかったため、三田警察署に連絡を取り、覚せい剤事犯捜査の係官の応援を求めた。

 3 5分ないし10分後、部下とともに駆けつけた三田警察署齊木清稔巡査部長は、道下巡査からそれまでの状況を聞き、皮膚が荒れ、目が充血するなどしている被告人の様子も見て、覚せい剤使用の状態にあるのではないかとの疑いを持ち、被告人を捜査用の自動車に乗車させ、同車内で道下巡査が行ったのと同様の説得を続けた。そうするうち、窓から本件自動車内をのぞくなどしていた警察官から、車内に白い粉状の物があるという報告があったため、齊木巡査部長が、被告人に対し、検査したいので立ち会ってほしいと求めたところ、被告人は「あれは砂糖ですよ。見てくださいよ。」などと答えたので、同巡査部長が、被告人を本件自動車のそばに立たせた上、自ら車内に乗り込み、床の上に散らばっている白い結晶状の物について予試験を実施したが、覚せい剤は検出されなかった。

 4 その直後、齊木巡査部長は、被告人に対し、「車を取りあえず調べるぞ。これじゃあ、どうしても納得がいかない。」などと告げ、他の警察官に対しては、「相手は承諾しているから、車の中をもう一回よく見ろ。」などと指示した。そこで、道下巡査ら警察官四名が、懐中電灯等を用い、座席の背もたれを前に倒し、シートを前後に動かすなどして、本件自動車の内部を丹念に調べたところ、運転席下の床の上に白い結晶状の粉末の入ったビニール袋一袋が発見された。なお、被告人は、道下巡査らが車内を調べる間、その様子を眺めていたが、異議を述べたり口出しをしたりすることはなかった。

 5 齊木巡査部長は、被告人に対し、「物も出たことだから本署へ行ってもらうよ。」などと同行を求め、被告人もこれに素直に応じたので、被告人を三田警察署まで任意同行した上、同署内で覚せい剤の予試験を実施し、覚せい剤反応が出たのを確認して、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕した。

 6 被告人は、同署留置場で就寝した後、同日午前9時30分ころから取調べを受けていたが、しばらくして尿の提出を求められ、午前11時10分ころ、同署内で尿を提出した。その間、被告人は、尿の提出を拒否したり、抵抗するようなことはなく、警察官の指示に素直に協力する態度をとっていた。

 二 以上の経過に照らして検討すると、警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難いが、警察官は、停止の求めを無視して自動車で逃走するなどの不審な挙動を示した被告人について、覚せい剤の所持又は使用の嫌疑があり、その所持品を検査する必要性、緊急性が認められる状況の下で、覚せい剤の存在する可能性の高い本件自動車内を調べたものであり、また、被告人は、これに対し明示的に異議を唱えるなどの言動を示していないのであって、これらの事情に徴すると、右違法の程度は大きいとはいえない。

 次に、本件採尿手続についてみると、右のとおり、警察官が本件自動車内を調べた行為が違法である以上、右行為に基づき発見された覚せい剤の所持を被疑事実とする本件現行犯逮捕手続は違法であり、さらに、本件採尿手続も、右一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用し、これに引き続いて行われたものであるから、違法性を帯びるといわざるを得ないが、被告人は、その後の警察署への同行には任意に応じており、また、採尿手続自体も、何らの強制も加えられることなく、被告人の自由な意思による応諾に基づいて行われているのであって、前記のとおり、警察官が本件自動車内を調べた行為の違法の程度が大きいとはいえないことをも併せ勘案すると、右採尿手続の違法は、いまだ重大とはいえず、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、被告人の尿の鑑定書の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当であり(最高裁昭和53年9月7日判決参照<大阪覚せい剤事件判決>)、右と同旨に出た原判断は、正当である。

 

最判平成15年5月26日 <警察官の行為にあまり問題がない事例。大事とは思えないが、最高裁の判例なので一応あげておく>

1 警察官が内ドアの敷居上辺りに足を踏み入れた措置について 
 一般に,警察官が警察官職務執行法2条1項に基づき,ホテル客室内の宿泊客に対して職務質問を行うに当たっては,ホテル客室の性格に照らし,宿泊客の意思に反して同室の内部に立ち入ることは,原則として許されないものと解される。
 しかしながら,前記の事実経過によれば,被告人は,チェックアウトの予定時刻を過ぎても一向にチェックアウトをせず,ホテル側から問い合わせを受けても言を左右にして長時間を経過し,その間不可解な言動をしたことから,ホテル責任者に不審に思われ,料金不払,不退去,薬物使用の可能性を理由に110番通報され,警察官が臨場してホテルの責任者から被告人を退去させてほしい旨の要請を受ける事態に至っており,被告人は,もはや通常の宿泊客とはみられない状況になっていた。そして,警察官は,職務質問を実施するに当たり,客室入口において外ドアをたたいて声をかけたが,返事がなかったことから,無施錠の外ドアを開けて内玄関に入ったものであり,その直後に室内に向かって料金支払を督促する来意を告げている。これに対し,被告人は,何ら納得し得る説明をせず,制服姿の警察官に気付くと,いったん開けた内ドアを急に閉めて押さえるという不審な行動に出たものであった。このような状況の推移に照らせば,被告人の行動に接した警察官らが無銭宿泊や薬物使用の疑いを深めるのは,無理からぬところであって,質問を継続し得る状況を確保するため,内ドアを押し開け,内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ,内ドアが閉められるのを防止したことは,警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして,適法な措置であったというべきである。本件においては,その直後に警察官らが内ドアの内部にまで立ち入った事実があるが,この立入りは,前記のとおり,被告人による突然の暴行を契機とするものであるから,上記結論を左右するものとは解されない。
 2 財布に係る所持品検査について
 職務質問に付随して行う所持品検査は,所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,たとえ所持人の承諾がなくても,所持品検査の必要性,緊急性,これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある(最高裁昭和53年9月7日判決<大阪覚せい剤事件>参照)。
 前記の事実経過によれば,財布に係る所持品検査を実施するまでの間において,被告人は,警察の許可を得て覚せい剤を使用している旨不可解なことを口走り,手には注射器を握っていた上,覚せい剤取締法違反の前歴を有することが判明したものであって,被告人に対する覚せい剤事犯(使用及び所持)の嫌疑は,飛躍的に高まっていたものと認められる。また,こうした状況に照らせば,覚せい剤がその場に存在することが強く疑われるとともに,直ちに保全策を講じなければ,これが散逸するおそれも高かったと考えられる。そして,眼前で行われる所持品検査について,被告人が明確に拒否の意思を示したことはなかった。他方,所持品検査の態様は,床に落ちていたのを拾ってテーブル上に置いておいた財布について,2つ折りの部分を開いた上ファスナーの開いていた小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見して抜き出したという限度にとどまるものであった。以上のような本件における具体的な諸事情の下においては,上記所持品検査は,適法に行い得るものであったと解するのが相当である。
 なお,警察官らが約30分間にわたり全裸の被告人をソファーに座らせて押さえ続け,その間衣服を着用させる措置も採らなかった行為は,職務質問に付随するものとしては,許容限度を超えており,そのような状況の下で実施された上記所持品検査の適否にも影響するところがあると考えられる。しかし,前記の事実経過に照らせば,被告人がC巡査に殴りかかった点は公務執行妨害罪を構成する疑いがあり,警察官らは,更に同様の行動に及ぼうとする被告人を警察官職務執行法5条等に基づき制止していたものとみる余地もあるほか,被告人を同罪の現行犯人として逮捕することも考えられる状況にあったということができる。また,C巡査らは,暴れる被告人に対応するうち,結果として前記のような制圧行為を継続することとなったものであって,同巡査らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があった証跡はない。したがって,上記行為が職務質問に付随するものとしては許容限度を超えていたとの点は,いずれにしても,財布に係る所持品検査によって発見された証拠を違法収集証拠として排除することに結び付くものではないというべきである。
 3 採取された尿について
 上記のとおり,覚せい剤所持事件の捜査過程で収集された証拠については,違法収集証拠として排除すべき事由はないから,これらを疎明資料として発付された令状により採取された尿について,その収集手続の違法を問題とする余地はないというべきである。
 4 結論
 以上のとおりであるから,財布に係る所持品検査によって発見された前記ビニール袋入りの白色結晶を含め,覚せい剤所持罪による現行犯逮捕に伴って被告人から押収された証拠及びその派生証拠については,その収集手続に証拠能力に影響を及ぼすような違法はなく,また,これらの証拠を疎明資料として発付された捜索差押許可状により採取された尿の鑑定結果についても,上記のような違法はないことに帰する。したがって,これと同旨の原判決の結論は正当である。

 

 

付録:最判53年7月10日<杉山>、最判平成12年2月22日