民法判例百選U 10 20 30 41 50 60 70 80 90 100

 

最判昭和30年10月18日 種類債権の特定  タール滅失事件(百選1 講義1)

事案:弁済の準備をし、言語による提供をしたものの、品質が悪いと買主が受け取らなかったので、売主は監視人を置かなくなったところ、何者かに勝手に転売されタールは滅失した。

原審:特定しており売主は善管注意義務を負うとした。売主の過失による履行不能と認め、買主の解除を認めた。

判旨:(1)不特定物売買かだけでなく制限種類物債権かどうかも確定する必要がある。なぜなら、制限種類物債権なら、履行不能となりうるかわりに、目的物の良否は普通問題とはならず、Xが「品質が悪いといって引取りにいかなかった」とすれば、Xは、受領遅滞の責めを免れないかもしれないからである。(制限種類物債権かどうかは、契約の内容のいかんによって定まる)

2)(取立て債務において、分離を行わずに)口頭の提供をしたからといって、物の給付を為すに必要な行為を完了したことにならないことは明らかである。従って特定したとはいえず、売主は善良なる管理者の注意義務をまだ負っていない

 

判例講義解説:口頭の提供により、(債務不履行責任を免れるが、)特定まではないとされた事例

 

コメント:

(1)制限種類物債権と通常の種類物債権の違いは、

    品質は通常問題とならないかわりに履行不能がありうること(1判例)。

(2)ただ制限種類物債権も種類物債権であるので、@特定前に所有権は移転せず、A特定するまでの危険は売主が負担し、Bその注意義務も特定するまでは善管注意義務までは負わない。

 

最判50・3・25 公務員に対する国の安全配慮義務 百選2 基本判例23

事案:交通事故

判旨:(1)国は、公務員に対し、…設置管理又は…公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という)を負っている。

2)安全配慮義務の具体的内容は、その状況によって異なるべきものであるが、…

3)安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は早々が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はない。

4)時効は、民法167条1項により、10年。会計法30条所定の5年と解すべきではない。

 

私見 特別な接触関係に入ったがゆえに負う義務であり、契約と密接に関係するがゆえにその違反については債務不履行と同様に扱われる。その範囲については、合理的な当事者の意思により定まるものと考える。従って、当事者の関係いかんによっては、交通規則を遵守するという義務の違反であっても、安全配慮義務違反となる場合があると考える(例えばタクシーの運転手の場合)。

 

最判58・5・27  百選3

事案:急加速により運転を誤り、対向車に衝突し、同乗者が死亡。

判旨:道路交通法その他の法令に基づいて当然に負うべきものとされる通常の注意義務は、右安全配慮義務の内容に含まれない

解説:使用者自身が車の運転を誤った場合には債務不履行責任が認められるのと比べ不均衡であるとの批判がある(17頁右下部分)。

 

私見:使用者自身が車の運転を誤っても債務不履行責任は負わないのではないか?<例えば、雇用関係にあるものの間で、使用者が被用者を故意に刺し殺した場合には、債務不履行責任は負わないのではないか>。

 

二重のしぼり:安全配慮義務を負う者の安全配慮義務違反行為のみが債務不履行責任の対象となる

債務不履行責任の方が不利なもの

@履行遅滞となるのは請求時から<最判昭和55年12月18日>(不法行為では請求時から)。

A死亡の場合に近親者は慰謝料請求できない<最判昭和55年12月18日>(不法行為の場合には請求できる)。

B安全配慮義務違反のときは、相手方からの相殺が禁止されない<もっとも、安全配慮義務違反の場合についても相殺禁止すべきとする説もある-内田V124頁>(不法行為では禁止される<509条>)

C使用者責任は成立しても、債務不履行責任が成立しない場合がある(例として本事件)。

 

債務不履行責任の方が有利なもの

@時効が10年

A宿直従業員が、侵入してきた盗賊に殺された事例で、雇用者との関係で、安全配慮義務違反を認めた判例がある(最判昭和59年4月10日*)。このように、雇用者との関係で不法行為が成立しないような事例でも成立する場合がある(内田V126頁)。

 

* 最判59年4月10日

ところで、雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、康裕一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たる康裕の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。

 

最判昭和28年12月18日 判7

1)本件の事実関係の下では、本件損害は通常生ずべき損害と解するのが相当である。

(債務不履行の時から解除時まで騰貴したことについての予見可能性は不要)

2)本件の如く売主が売買の目的物を給付しないため売買契約が解除された場合においては・・・

損害賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準として定むべきで、履行期における時価を標準とすべきでない。

 

解説:その後に、同様の事案で、履行期を基準時とする最判36年4月28日判決がでて、判例をどのように整合的に理解するかで、学説に混乱がある。説明を放棄するのが平井説。これに対し、損害軽減義務との関係において、基準時を決定しようとする考え方が主張されている(内田)。

 

最判昭和47420 百選8

事案:二重譲渡により履行不能後となった後も騰貴を続ける。買主は、自分で住むつもりだった。

判旨:履行不能となった後、その目的物の価格が騰貴を続けるという特別の事情があり、かつ、債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を知っていたかまたはこれを知りえた場合には、債権者は、債務者に対しその目的物の騰貴のした現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものである。

 

最判昭和5036日 百選10

1)買主は、共同相続人の全員が登記義務の履行を提供しないかぎり、代金全額の支払いを拒絶することができる。

2)この場合、相続人は、右同時履行の抗弁権を失わせて買主に対する自己の代金債権を保全するため、債務者たる買主の資力の有無を問わず、423条1項本文により、買主に代位して登記請求権を行使することができる。

 

※私見:無資力要件は、原則として依然必要。債務者の財産管理権への不当な介入とならないように。もっとも、本件のように、他に履行の手段がない例外的な場合には、そもそも債務者に選択の余地はないのだから、財産管理権への不当な介入とならず、無資力要件は不要。なお、これよりも緩やかに、関連性が強い場合にも、無資力要件は不要とする考え方がある(31頁右上部分)。この考えによると、49年11月29日の保険金請求権の事例でも、無資力は不要となるが、判例はこの考え方を採用していない(判例は無資力を必要とし代位を認めず)。

 

大判明治44年3月24日 百選13

判旨(1)折衷説、(2)相対的取消、(3)債務者は被告適格がない、(4)転得者が現れた場合に、受益者に対して価格賠償をするか、転得者に対して現物返還を請求するかは取消債権者の自由な選択に委ねられる、(5)取消のみを請求することも適法。

 

※相対的取消とするのは、受益者が善意でも、悪意の転得者にかかっていけるように。

債務者に取消の効力が及ばないなら受益者は、代金と現物との同時履行を主張することはできない。

受益者は返還された物が弁済にあてられた段階で始めて不当利得返還請求権を取得する。

このような相対的取消論については、債務者に効力が及ばないのに、なぜ債務者の財産として執行の対象となるのか不明であるとの批判がされている。

 

最判昭和36年7月19日 判14

判旨(1)特定物債権を被保全債権としても債権者取消権を行使しうる。けだし、かかる債権も究極において損害賠償請求権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは金銭債権と同様だからである。

(2)物の価格以下での代物弁済のときは、もとより詐害行為を構成するが、右の取消は債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまる。債権者取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産減少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるところ、その範囲で認めればその目的は達成されるからである。

解説(1)については、特定物請求権のまま行使しうるとする説、行使時(口頭弁論終結時)までに損害賠償請求権になっている必要があるとする説(多数説)などがある。

(2)については、抵当権登記がなくなっているので、土地の返還を認めずに、家屋の価額から抵当債権額を控除した残額の部分についての価額賠償を認めた。

 

最判平成10612  百選15

事案:譲渡担保で通知を無資力となった後にした。

判旨:債権譲渡の通知は、詐害行為取消の対象とならないと解するのが相当である。

けだし、詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、・・・

 

最判平成11611  百選16

判旨:遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。

けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。

 

最判53・10・5  百選17

判旨(1)特定物引渡請求権は、究極において損害賠償請求権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様であり、その目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、当該特定物債権者は右処分行為詐害行為として取消すことができる。

 

(2)しかし、424条の債権者取消権は、究極的には債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、そう債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照らし、特定物債権者は、目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできないものというべきである。

 

424条の趣旨から、債権者取消の効果としては、債務者への登記移転しか認められないとしている。債務者の登記名義に戻った後で、この債権者が移転登記請求を債務者にした場合にどうなるかについては、ふれていない。いったん金銭債権になった場合には、もう特定物債権に戻らないと解すればよいのではないか(内田)。なお、第一買主は、相手方が177条の背信的悪意者にあたるかという方法で、争う方が土地所有権を取得できる可能性が残るため得である。

 

最判平成4・2・27  百選18 詐害行為と原状回復 (内田295頁最終行)

事案:共同抵当のついた土地をいくつか(全部ではない)譲受けた者が、弁済し、抵当権を消滅させた後で、詐害行為取消がされた。一部の土地の現物返還が認められるか。

 

判旨(1)共同抵当の目的とされた数個の不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合において、当該詐害行為の後において、当該詐害行為の後に弁済によって右抵当権が消滅したときは、売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものでない。

 

(2)そして、この場合において、・・・控除すべき被担保債権の額は、民法392条の趣旨に照らし、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を按分した額によると解するのが相当である。

(不動産価額から抵当権により把握されていた被担保債権額を控除した残額が、価格賠償として賠償される。)

 

解説:我妻説は(1)について可能な限り現物返還を貫こうとする。しかし、本判決はこの立場をとらない。そのような現物が存在することはめずらしいし、仮にあっても、価格賠償で調整するあること、一部取消の判例理論との整合性が疑われるなどの理由による。

 

最判50・12・1 百選19 詐害行為と価格賠償額算定の基準時

判旨:詐害行為取消の・・・価額の算定は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解するのが相当である。

けだし、・・・詐害行為にとって債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである。

 

最判昭和46年11月19日 百選20 按分額による配当要求

判旨:そのような意思表示の効力を認めるべき(実定法上の)根拠はない。

 

※判例は、形式論。実質論から考えても、詐害行為を行った悪質な債権者にこのような抗弁を認めるのは公平の観点から妥当でない。事実上の優先弁済的な効力が生じるが、費用をかけて詐害取消を行っているし、また配当手続きについての立法上の不備がある以上、やむをえない。

 

最判34・6・19  百選23 

事案Aとその妻Y1が連帯債務を負担(30万くらい)。Aが死に、Y1,Y2,Y3,Y4,Dがそれぞれ1/3,1/6,1/6,1/6,1/6の割合で相続。Y2,Y3,Y4,Dは、30万円の1/6である5万円のみを負担するというのが、最高裁。Y1は、そもそも相続の前から30万円を負担している。よって、Y1については相続によって、その債務に変動は生じない。

 

判旨…相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。

 

解説:担保的効力を弱める、法律関係を複雑にするとの批判がある。しかし、全額を各相続人に請求できるとすると相続人の犠牲の下に債権者に不当な利益を与えることになる。相続人は、相続分の割合でのみ利益を受けるのだから、その割合でのみ、債務も負担するというのが、公平である。

 

最判昭和40年6月30日 判24 解除による原状回復義務

判旨:(1)売買契約の解除のように遡及効を生じる場合には、その契約の解除による原状回復義務は、本来の債務が消滅した結果生じる独立別個の債務であって、保証人は、特約のない限り、その保証の責めに任ずべきでないとする判例がある。

(2)しかしながら、特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生じる売主の債務に付き保証人が自ら履行の責めに任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行責任に基因して売主が買主に対して負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当である。

(3)前示判例は、右の趣旨においてこれを変更すべきものと認める。

 

解説:本判決の射程については、特定物売買についてのみなのか、種類物売買にまで及ぶのか、請負などにも及ぶのか争いがある(59頁-4)。結局は、当事者の合理的意思による。

主債務と保証債務の内容が同一でなければいけないという446条は、当事者の合理的意思、当事者間の公平を考慮した規定と解されるが、例外を認めないものではない。

 

最判昭和391218日 百選25 継続的保証

判旨:本件のごとき@期間の定めのない継続的保証契約はA保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至った等保証人として解約申し入れをするにつき相当の理由がある場合においては、

B右解約により相手方が信義則上看過しえない損害をこうむるとかの特段の事情がある場合を除き<効果>一方的に解約しうる(即時に消滅)と解するのを相当とする。

 

解説:(1)学説は、事情変更に基づく解約を特別解約、期間経過によるものを任意解約と呼ぶ。しかし、本判決は、両系統を峻別せずに、両方を射程にいれていると位置付ける説もある(百選61頁左下)。

(2)賃貸借契約でも、適用されるかについては、相続との関係では特別視されてきたが、解約との関係では判例法理を適用すべきである。

(3)解約しなくても、責任制限がある。信義則に照らし合理的な範囲に限定される。例えば、取締役が会社の債務につき保証した場合には、その退任後の債務については責任を負わない。

(4)相続について、判例は、賃貸借の継続的保証について、相続を肯定する。身元保証のような信頼関係、責任の広汎性がないことを理由とする。

 

最判平成10910  百選26

判旨:被害者が、訴訟上の和解に際し、乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶものというべきである。

そして、この場合には、乙はもはや被害者から残債務を訴求される可能性はないのであるから、甲の乙に対する求償金額は、確定した損害額である甲の支払額を基準とし、双方の責任割合に従いその負担部分を定めて、これを算定するのが相当である。

 

※原則としては、不法行為では、免除に絶対効が生じないことをまず認定すべし。

 

最判昭和48・7・19  百選27 債権譲渡禁止特約付債権と重過失ある第三者

判旨:重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきものであるから、…重大な過失があるときは、悪意の譲受人と同様、譲渡によってその債権を取得し得ないものと解するのを相当とする。

 

解説(1)466条2項の善意には無過失を要するかが論点。

(2)銀行預金については、ほとんど悪意とされる。(ただ、銀行預金の譲渡禁止特約は合理性がないとしてそもそもその効力を認めるべきでないとする米倉説もある。)

 

最判平成11・1・29  百選28 将来発生する債権の譲渡

(1)債権譲渡契約にあっては、…譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。

…契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。債権が発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益は譲渡人の契約上の責任の追及により清算することと解すれば、不合理でないからである。

 

(2)もっとも、…契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなど特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗(90条)に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。

 

※要件は、二つ。特定と90条に反しないこと。

 

最判平成9・6・5  百選29  譲渡禁止特約付債権の譲渡と債務者の事後承諾

事案:国が、滞納処分による差押をした後で、債務者の事後承諾があった事例(国の勝ち)

 

判旨:(事後承諾をしたときは、)右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法116条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできないと解するのが相当である。

 

最判平成9・11・11  百選30  異議なき承諾と賭博債務

判旨:異議なき承諾をしたときであっても、…契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。

けだし、賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく、賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって、この要請は、債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。

私見:どの学説にたったとしても、本件では、債権は無効とすべきという結論を導けそう。

 

最判平成4・11・6  百選31  抵当権と異議をとどめない承諾の効力

事案:抵当権の付着した土地を第三者が取得。第三取得者が代位弁済。その後、債務者が弁済を知らずに、異議なき承諾をした。

判旨:第三取得者であるXに対する関係において、その被担保債権の弁済によって消滅した本件抵当権の効力が復活することはない

 

※債権の消滅を対抗できない結果、従来の債権が存続するものとして扱われるとする池田説と、債権は消滅するが、権利外観により新たな債権を負担するものであるとし、抵当権の復活だけでなく、無効登記の流用の可否も問題とする高木説が有力である。

どちらの説にたつにしろ、後順位抵当権者などに、不利益が及ばないように配慮されなければならない。

 

最判49・3・7  百選32  債権譲渡での通知の同時到達

(1)1項(の趣旨は)…民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によってそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものというべきである。

そして、2項(の趣旨は)債務者が第三者に対し債権譲渡のないことを表示したため、第三者これを信頼してその債権を譲り受けた後に譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通謀して譲渡の通知又はその承諾のあった日時を遡らしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、前示のような467条1項所定の債権譲渡についての対抗要件制度の構造になんらの変更を加えるものではないのである。

(2)右のような民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば、債権が二重譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、確定日付の先後によって定めるべきではなく、通知が債務者に到達した日時または承諾の日時の先後によって決すべきである。

 

最判平成5・3・30  百選33  同順位の債権譲受人間における供託金還付請求権の帰属

(1)到達の先後関係が不明であるために、その相互間の優劣を決することができない場合には、右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当である。

このような場合には..互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であると主張することが許されない関係に立つ。

(2)到達の先後関係が不明であるために、第三債務者が債権者を確知することができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において、..合計額が右供託金額を超過するときは、公平の原則に照らし、債権額に応じて供託金額を按分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものと解するのが相当である。

 

※同時到達の場合に、片方の債権譲受人が債務者から弁済を受けた場合に、もう片方の譲受人が債権額に応じて按分した額を不当利得として請求できるかについては、争いがある。

 

最判411220  百選34  重畳的債務引受

判旨:重畳的債務引受がなされた場合には、反対に解すべき特段の事情のないかぎり、元債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずるものと解するのを相当とする。

批判:主観的関連共同がない本件のような事例まで連帯債務とするのは不当である。

 

最判昭和46年4月23日 百選35 契約上の地位の譲渡

事案:原告Xは、Yから借地権の設定を受けた。Xは、借地権の対抗要件を備えていなかった。Y→A→Bと土地は移転。土地の買受人Aは、借地権つきであることを了承していたが、BはXに対して土地の明渡し請求を行う。追い出されたXはYに対して債務不履行責任を問う。しかし、Yはもはや賃貸人の地位にないとして、原告Xは敗訴した。

 

判旨(1)一般の債務の引受の場合と異なり、特段の事情のある場合を除き、新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには、賃借人の承諾を必要とせず、旧所有者と新所有者間の契約をもってこれをなすことができる。

(2)理由は、賃貸人の義務は賃貸人が何人であるかによって履行の方法がかわるわけでなく、義務の承継を認めるほうが(転借人とならず)賃借人にとって通常有利だからである。

 

※賃借人の方が、賃貸借契約の移転がないと争っためずらしい事例であることに注意。

 

最判63・7・1  百選36  建物賃借人の地代弁済と第三者弁済

判旨:借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。

けだし、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。

 

最判61・4・11  百選37  劣後債権者と民法478条

判旨:債務者において、劣後譲受人が真正の債権者であると信じてした弁済につき過失がなかったというためには、優先譲受人の債権譲受行為又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることが必要であると解すべきである。

 

※優先譲受人は、劣後譲受人に対して、不当利得請求ができる。

 

最判平成9・4・24  百選38  契約者貸付けと478条の類推適用

判旨:右のような貸し付けは、約款上の義務の履行として行われる上、貸し付け金額が解約返戻金の範囲内に限定され、保険金等の支払いの際に元利金が差引計算されることにかんがみれば、その経済的実質において、保険金又は解約返戻金の前払いと同視することができる。

そうすると、..代理人と称するものの申し込みによる貸し付けを実行した場合において、右の者を保険契約者の代理人と認定するにつき相当の注意義務を尽くしたときは、保険会社は、民法478条の類推適用により、保険契約者に対し、右貸付の効力を主張することができるものと解するのが相当である。

 

※民法478条の類推がどこまで可能なのか、意識する必要がある。大量・画一的な取引に判例は478条を類推する傾向があるが、やや疑問。むしろ約款で自衛すべきでは?

 

最判59・5・29  百選41  求償権についての特約と代位の範囲

判旨(1)民法459条2項が準用する442条2項は、任意規定である。<遅延損害金の特約>

なぜなら、@法定利息と異なる約定利息による代位弁済の日の翌日以後の遅延損害金を支払う旨の特約を債務者・保証人間ですることを禁ずるものではない。

Aそして、後順位抵当権者に対して、不当に不利益を与えるものではないから、後順位抵当権者に対してもかかる特約の効力を主張できると解すべきである。

 

(2)民法501条但書き5号は、補充規定である。物上保証人との間で同号の定めと異なる特約をした保証人は、後順位抵当権者等の利害関係人に対しても右特約の効力を主張することができる。<代位割合の特約> 詳細は付録

 

最判平成2・12・18  百選42  物上保証人と事前求償権

判旨:委託を受けた保証人の事前求償権に関する民法460条の規定を委託を受けた物上保証人に類推適用することはできない。

※@規定がない、A責任を負うにすぎず、弁済を委託されているわけではない、B抵当権を実行するまで、求償額は確定しない

 

最判45・6・24  百選43  差し押え・債権譲渡と相殺

無制限説にたった判例。 詳細は付録

 

最判平成9・7・1  百選44  事情変更の原則の要件

(1)事情変更の原則を適用するためには、@契約締結後の事情の変更が、A当事者にとって予見することができず、かつB当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要である。(C契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められること

(2)そして、右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当事の契約当事者についてこれを判断すべきである。

 

最判平成8・11・12  百選45  複数契約上の債務不履行と契約解除

(1) このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。

(2) これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。

 

最判60・11・29  百選46  贈与と書面

550条が書面によらない贈与を取り消しうるものとした趣旨は、贈与者が軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にすることを期するためであるから、贈与が書面によってされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によっていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることを必要とせず、書面に贈与がされたことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りるものと解すべきである。

 

最判51・2・13  百選49  民法561条による解除と買主の使用利益の返還義務

売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間に目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法561条の規定により該契約が解除された場合についても同様である。

 

けだし、

解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり、売主が、目的物につき使用権限を取得しえず、したがって、買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有し得ないこととなる立場にあったとしても、このことは右の結論を左右するものではないと解するのが、相当だからである。

 

※ 結局は、法定利息とのバランス。原状回復して、契約がなかった状態に戻す。その利益が最終的に相手方に帰属するかは問題とならない。

もっとも、真の所有者に返還したために、物の返還が不能となった場合には、物自体の返還義務は免れると考えるべきであろう。本件でも、自動車の返還義務又はそれに変わる損害賠償請求は認められていない。

 

最判48・7・12 百選50  民法565条によって準用される564条の期間の起算点

民法565条によって準用される同法564条所定の除斥期間は、買主が善意のときは、同人が売買の目的物の数量不足を知ったときから起算されるが、買主が数量不足を知ったときから起算されるが、買主が数量不足についてはすでに知っているものの、その責めに帰すべきでない事由により売主の誰であるかを知りえなかったときは、買主が売主を知ったときから起算すべきであると解するを相当とする。

 

解説:帰責事由がないことについては、柔軟に考えるべきである。

 

最判57・1・21  百選51  数量指示売買と履行利益

土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり売買契約の目的を達成する上で特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わないものと解するのが相当である。

 

解説(1)本件判例は、最高裁として、履行利益も担保責任の損害賠償の範囲に含まれる場合がありうることを、最高裁として初めて肯定したという点に重要な意義がある。

(2)この点、保証約束(損害担保約束)の効果であるとする見解もある。この見解によれば、1年の期間制限が課されないという点で不当である。

(3)この判例は、損害担保契約の効果としてではなく、担保責任の問題としているので債務不履行責任説に親和的である。(債務不履行責任説からは、履行利益も賠償されることになるが、何を当事者が完全な履行と考えていたかによって、数量不足の分の土地の転売利益がこれに含まれるかかわってくることになる。)

 

最判平成3年4月2日  百選54  土地賃借権の瑕疵

建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当事に存したことがその後に判明したとしても、右売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。

 

けだし、右の場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、・・・客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないからである。

 

なお、右の理は、債権の売買において、債務の履行を最終的に担保する債務者の資力の欠如が債権の瑕疵に当たらず、売主が当然に債務の履行について担保責任を負担するものでないこと(民法569条参照)との対比からしても明らかである。

 

解説:熟知していたのに、告知しなかった場合には、告知義務違反として債務不履行責任を認めることができる。

 

 

大判大正13924日  百選55  果実収取権

引渡前の果実の売主への帰属を定めた民法575条1項は、引渡義務を売主が遅滞している場合にも適用される。(代金の支払いを受けている場合は、買主が果実を収取する)

 

最判昭和43年11月13日  百選56  制限超過利息の返還請求

(1)債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは、右制限を越える部分は、民法491条により、残存元本に充当される..

 

(2)利息制限法1条2項、4条2項は、債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払ったときは、その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが、この規定は、金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。

けだし、元本債権の存在しないところに、利息・損害金の超過支払いということもあり得ないからである。この故に、消費貸借上の元本債権が既に弁済によって消滅した場合には、もはや利息・損害金の超過支払いということはありえない。

したがって、計算上元本が完済となった後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができる。

 

最判昭和58年1月20日  百選58  借地借家法6条の正当事由と建物賃借人の事情

(1)正当の事由があるかどうかを判断するにあたっては、土地所有者側の事情と借地人側の事情を比較考量してこれを決すべきものである。

(2)右判断に際し、借地人側の事情として借地上にある建物賃借人の事情をも斟酌することの許されるのは、借地契約が当初から建物賃借人の存在を容認したものであるとか、又は実質上建物賃借人を借地人と同一視できるなどの特段の事情がある場合に限る。

 

最判昭和41年4月21日  百選59  増改築禁止特約の効力

建物所有目的の土地の賃貸借中に増改築禁止特約に反して増改築がされても、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃借人に対する信頼関係を破壊するおされがあると認めるに足りないときは、賃貸人は、前記特約に基づき、解除権を行使することは信義誠実の原則上許されない

 

最判49年9月2日  百選60  借家の明渡し義務と敷金返還義務との同時履行

1)敷金は、賃貸借の終了後家屋明渡し義務の履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのある一切の債権を担保するものであり、賃貸人は、賃貸借の終了後家屋の明渡しがされたときにおいてそれまでに生じた右被担保債権を控除してなお残額がある場合に、その残額につき返還義務を負担するものと解すべきものである。

そして、敷金契約は、このようにして賃貸人が賃借人に対して取得することのある債権を担保するために締結されるものであって、賃貸借契約に付随するものではあるが、賃貸借契約そのものではないから、賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできず、また、両債務の間には著しい価値の差が存しうることからしても、両債務は合い対立させてその間に同時履行の関係を認めることは、必ずしも公平の原則に合致するものとはいいがたいのである。…

このよう観点からすると、賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡しを受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当である。

 

2)そして、このように賃借人の家屋明渡し債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合にあっては、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はないというべきである。

 

最判昭和531222日  百選61

敷金契約は、...賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約である。そして、賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金変換請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものではないと解すべきである。

 

最判昭和59年4月20日  百選62  更新料支払い義務の不履行

更新料の不払いは、当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせる著しい背信行為であり、賃貸借契約の解除原因となりうる。

 

最判平成9年2月25日  百選63 債務不履行による賃貸借契約の解除と承諾がある転貸借の帰趨

賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、転貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求したときに、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。

 

理由:(1)転借人は、賃貸人から返還請求を受けた時点以降は、賃貸人に対して損害賠償債務ないし不当利得返還債務を負うことになるが、これと転借料債務とを併存させることは、法律関係を複雑にするばかりでなく、転借人の犠牲において、債務不履行をした転貸人が、転貸料と賃料相当損害額との差額を利得しつづけることになって妥当性を欠くこと

(2)転借人に返還請求がなされた以上、社会通念上、転借人が転貸人に転借権を対抗しうる状態を回復することは不可能になったと認められること

 

最判平成6年10月25日  百選64  立退き料の提供申し出の時期

事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては、原則としてこれを斟酌することができる。

 

最判昭和42年2月21日  百選65  内縁の妻の借家権の承継

原判決が確定した事実関係のもとにおいては、..相続人の賃借権を援用して本件家屋に居住する権利を主張することができるものと解するのが相当である

 

最判平成5年10月19日  百選66  請負契約における所有権の帰属

建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。

 

けだし、...下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張しうる立場にはないからである。

 

最判昭和56年1月19日  百選67  受任者の利益のためにも締結された委任と解除

受任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに徴すれば、…やむをえない事由があるときは、受任者において受任契約を解除することができる。

さらに、かかるやむをえない事由がない場合であっても、受任者が受任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、該委任契約が受任者の利益のためにもなされていることを理由として、委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任者の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから、委任者は民法651条に則り委任契約を解除することができる。(受任者がこれによって不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることができる)

 

最判平成4年9月22日  百選68  死後の事務処理の委託と委任契約の終了

(委任契約が委任者の死亡により終了するという)民法653条は、強行規定ではない。

 

大判昭和11年2月25日  百選69  組合財産の帰属

組合員が組合に対して債権を取得しても、組合員の債権と組合員として負担する組合債務の負担部分との混同は生じない。

※組合財産は、独立性を有しているところ、組合債務は組合財産から弁済されるのが通常であるからである。

 

最判昭和33年7月22日

所論のように組合財産が理論上合有であるとしても、民法の法条そのものはこれを共有とする建前で規定されており、組合所有の不動産の如きも共有の登記をするほかはない。従って解釈論としては、民法の組合財産の合有は、共有持分について民法の定めるような制限を伴うものであり、持分についてかような制限のあることがすなわち民法の組合財産合有の内容だと見るべきである。そうだとすれば、組合財産については、民法六六七条以下において特別の規定のなされていない限り、民法二四九条以下の共有の規定が適用されることになる。

 

最判平成7年9月19日  百選70  貸しビル

乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因無くして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。

 

けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求そることができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。

 

最判平成10年5月26日  百選71  第三者に交付された貸付金の返還

特段の事情のない限り、甲は、乙の丙に対する給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。

 

けだし、そのような場合に、乙の給付による利益は直接には右給付を受けた丙に発生し、甲は外見上は利益を受けないように見えるけれども、右給付により自分の丙に対する債務が弁済されるなど丙との関係に応じて利益を受けうるのであり、甲と丙との間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係が存在するのが通常だからである。また、その場合、甲を信頼しその求めに応じた乙は必ずしも常に公平間の事情の詳細に通じているわけではないので、このような乙に甲へ間の関係の内容及び乙の給付により甲の受けた利益につき主張立証を求めることは乙に困難を強いるのみならず、甲が乙から給付を受けた上でさらにこれを丙に給付したことが明らかな場合と比較したとき、両者の取り扱いを異にすることは衡平に反するものと思われるからである。

 

最判昭和38年12月24日  百選72  不当利得の範囲(銀行の運用利益)

およそ、不当利得された財産について、受益者の行為が加わることによって得られた収益につき、その返還義務の有無ないしその範囲については争いのあるところであるが、この点については、社会観念上受益者の行為の介入がなくても不当利得された財産から損失者が当然取得したであろうと考えられる範囲においては、損失者の損失があるものと解すべきであり、したがってそれが現存するかぎり同条にいう「利益の存する限度」に含まれるものであって、その返還を要するものと解するのが相当である。

 

最判昭和29年8月31日  百選73 不法原因の比較 

民法708条は、社会的妥当性を各行為の結果の復旧を望む者に助力を拒まんとする私法の理想の要請を達せんとする規定である。

Xが本件貸金を為すに至った経路において多少の不法的分子があったとしても、その不法的分子は甚だ微弱なもので、これをYの不法に比すれば問題にならぬ程度のものである。…かかる場合は既に交付された物の返還請求に関する限り民法90条も708条もその適用なきものと解するのを相当とする。

 

最判昭和45年10月21日 所有権返還請求権と民法708条 百選74 

(1)右贈与は公序良俗に反し無効であり、…本件建物の所有権は、右贈与にとってはYに移転しない

 

(2)同条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されないと解する。

 

(3)贈与者において給付した物の返還を請求できなくなったときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属するにいたったものと解するのが、最も事柄の実質に適合し、かつ、法律関係を明確ならしめる所以と考えられる。

 

※給付は、終局的なものである必要があるか

終局的な給付がない場合に、返還を否定すると、両すくみの状態が生じ、法律関係を不明確ならしめ、社会的に望ましくない状態を生み出す(誰に対して課税すればよいのか不明など公益にも反する結果となる)。よって、給付は終局的なものであることが必要と解すべきである。

 

贈与者が、家屋を他の第三者にも譲渡した場合

二重譲渡類似の関係となる(百選解説5)

 

使用貸借として未登記家屋を使用させた場合

使用利益については終局的な利益の移転はあるが、家屋の所有権については終局的な利益の移転はない

 

最判平成5年9月9日 事故と自殺の因果関係 百選77

判旨:(1)自殺との相当因果関係を認めた上で、(2)自殺には同人の心因的要因も寄与しているとして相応の減額をして死亡による損害額を定めた原審の判断は正当である。

 

百選解説

ア.相当因果関係説 イ.寄与度による責任 ウ.過失相殺類推適用説(最判63年4月21日)

アだと、責任ありなしのどちらかで硬直的。また、自殺の予見可能性の証明は著しく困難。

 

近時は、交通事故と自殺との間の因果関係の存在は、経験則として認識されつつあり、相当因果関係を肯定した上で、722条を類推して減額する処理が支配的である。

 

コメント:心因的素因に基づく減額は、過失概念とも親和的で受け入れやすいものであろう。一方、疾患などの身体的素因については、考慮すべきでないとする考えも有力である。

 

最判昭和49年3月22日  未成年者と監督義務者の責任 (百選79)

未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当であって、民法714条の規定が右解釈の妨げとなるものではない。

 

百選解説:民法714条は、未成年者が責任能力を有しない場合に監督義務者の責任を補充的に認める。では、かかる714条により、未成年者が責任能力を有する場合の監督義務者は、709条の責任をも免れるのか?この点、免れるとすると、@未成年者が責任能力を有するか微妙なときに誰を訴えればいいのか困る、A未成年者は、大体において無資力なので被害者が保護されない、B監督義務者の監督義務違反があっても監督義務者が責任を免れることになり不合理である。

 

714条の法的性質:監督義務違反行為についての自己責任と考え、ただ過失についての証明責任が転換されているだけと考えるべきである。

失火法との関係714条は自己責任なのだから、失火法との関係では、監督について重過失がことを要求すべきである(最判平成7年1月24日同旨)

 

最判昭和40年11月30日  事業の執行につき(百選80)

(1)715条にいわゆる「事業の執行につき」とは、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含するものと解すべきである。

 

(2)これを被用者が取引行為のかたちでする加害行為についていえば、…当該行為が、(い)被用者の分掌する職務と相当の関連性を有し、かつ、(ろ)被用者が使用者の名で権限外にこれを行うことが客観的に容易である状態に置かれているとみられる場合のごときも、被害者の保護を目的とする民法715条の法意にかんがみ、外形上の職務行為に該当するものと解するのが相当である。

 

(3)@Aは手形係を免ぜられた後も、会計係として手形を銀行に使送する職務を担当しており、手形の作成は右職務とそうとうの関連性があったこと、A事務所の構造、机の配置上、Aが手形作成事務から無関係となったことにつき、客観的条件の随伴が不完全であり、Aが会さの印象を冒用して手形を偽造するのが容易な状況にあったこと、...などからすれば、上記の要件を満たし、民法715条にいう『事業の執行につき』なされたものと解するのが相当である。

 

百選解説:事実的不法行為については、外形理論は採りえないとする批判が多い。(むしろ人的危険の支配の有無を基準とすべきであるという)。

判例においても、被用者の暴力行為では、「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」かどうかが基準とされ、外形理論は放棄されるに至っている(最判昭和44年11月18日)

 

会社の上司が犬の散歩を部下に頼む:会社の事業と関係なく、事業の執行行為をも契機とせずに行われるものであり、「事業の執行につき」行われるものとは考えられない(私見)

 

最判昭和42年11月2日  取引先の外観信頼(百選81)

被用者のなした取引行為が、その行為の外形から見て、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、その行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものでなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながら、または、少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたと認められるときは、その行為にもとづく損害は民法715条にいわゆる「被用者が其の事業の執行に付き第三者に加えたる損害」とはいえないと解するのが相当である。

 

なぜなら、(悪意または重過失がある場合には、)公平の見地に照らし、被用者の行為の外形に対する相手方の信頼が・・・法律上保護に値しないものと認められるからである。

 

百選解説(1)今日まで、重過失の存在を認めた判決例はむしろ少なく、重過失の抗弁がされても、それを否定し、過失相殺にととめる処理が常態化している。(百選解説3)

 

重過失でも責任を認めた上で、過失相殺の問題とすればよいという学説も有力で(=この方がきめ細かな利益考量をなしえ、損害の公平な分担をという不法行為法の理念に沿う)、判例が重過失の認定に慎重なのは、この学説の影響かもしれない。

 

(2)残された問題

取引的不法行為なるものが、どういうものなのかが明らかでない。(私見=取引行為を被使用者と行った場合と考えるべき)

 

最判51年7月8日  民法715条3項にもとづく求償権の制限(百選82)

(使用者は、)損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。

 

百選解説:求償権の法的性質については明らかにしていないが、求償の範囲が制限されるとしたことに意義がある。

 

大阪地判平成7年7月5日 共同不法行為の要件(百選83)

強い関連共同と弱い関連共同を区別し、弱い関連共同では反証による寄与度減責を認める。

(公害などで、あまり寄与していない場合に、公害全部について賠償させられるのは、あまりに酷という価値判断を前提とする)

 

※最高裁平成13年3月13日判決で、この地裁の考え方は否定されたものと思われる。

 

最判平成3年10月25日  複数の者が使用者責任を負う場合と求償権の範囲(百選84)

1)複数の加害者の共同不法行為につき、各加害者を指揮監督する使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においては、一方の加害者の使用者との間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って定められるべきであって、…

 

けだし、使用者は、その指揮監督する被用者と一体をなすものとして、被用者と同じ内容の責任を負うべきところ、この理は右の使用者相互間の求償についても妥当するからである。

 

2)また、一方の加害者を指揮監督する複数の使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においても、各使用者間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、被用者である加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度、加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきものであって、使用者の一方は、当該加害者の前記過失割合に従って定められる負担部分のうち、右の責任の割合に従って定められる自己の負担部分を越えて損害を賠償したときは、その超える部分につき使用者の他方に対して右の責任の割合に従って定められる負担部分の限度で求償することができるものと解するのが相当である。

 

最判昭和48年6月7日  民法416条と不法行為 (百選86)

不法行為による損害賠償についても、民法416条が類推適用され、特別の事情によって生じた損害については、加害者において、右事情を予見し、または予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責めを負うものと解すべきである。

大隈反対意見

 

最判平成8年4月25日 事故の被害者が別の事故で死亡した場合の逸失利益(百選88)

その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。

 

けだし、(1)労働能力の一部喪失による損害は、交通事故のときに一定の内容のものとして発生しているのであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来たすものではなく、(2)また、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。

 

百選解説(1)は、損害差額説よりも、労働能力喪失説に近い立場を採ったとみるのが自然。ただ、この(1)の理由は決定的な理由ではない。(2)が、本判決の大事な部分。

 

事故と無関係の理由により自殺した場合:本判決によると、自殺の事実は、考慮せずに、逸失利益の算定をすることになる。ただ、少数学説からの批判もあるところ。

 

がんで余命1年と宣告されていた者が、交通事故で労働能力を喪失。その1年後に、予告どおりがんで死んだ場合1年分の逸失利益しか払わなくていい。本判決の特段の事情があるから、死亡の事実を考慮してよい。

 

加害事故後に他の原因で死亡した場合の生活費:原則、損益相殺できない。加害事故により生活費を負担しなくてよくなったのではないから。但し、交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合には、死亡後の生活費を控除できる。(最判平成8年5月31日)

 

加害事故後に他の原因で死亡した場合の介護費用:死亡後の介護費用は請求できない。∵当事者間の衡平(最判平成11年12月20日)

<長く裁判をやって死ぬのを待つのが得?そうならないように、介護費用については、定期金賠償の方式が検討されるべきとの意見もある(百選解説水野)。しかし、判例は介護費用についても損害は加害行為時に一体のものとして発生していることを明言しており、定期金賠償とする必要はないとの立場に立つ=私見>

 

最判平成9年1月28日   外国人の逸失利益(百選89)

財産上の損害としての逸失利益は、事故がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり、損害の塡補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして、右算定は、被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である。

 

なお、本判決は、日本人以上の慰謝料を認めるべしとする上告理由を退けている。

 

百選解説(1)規範的判断を重視すべしとの批判もある。人間の価値は平等であるはずであるなど。(2)本判決の一般論の射程は広く、損害賠償一般に及ぶものと解される。

 

最判昭和39年6月24日  百選90  過失相殺の要件

民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失を斟酌する場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が備わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である。

 

判例講義解説

さらに進んで、被害者の「期待される行動のパターンからの逸脱」があれば足りるとする説(四宮)などもある。

 

判例百選解説(橋本)

損害の公平な分担という観点からその行為態様を考慮すべきと直接に考えると、主観的過失・事理弁識能力は、必然のものではなくなっていく

 

判例理論においても、@事理弁識のない被害者の監督義務者の過失が、被害者側の過失として考慮されることで、事理弁識能力を要求する法理が、実質上修正されている。

 

また、A722条の類推についての判例は、過失責任という考えより、むしろ自己の権利領域内の特別の損害危険に起因する結果は自ら負担すべしという領域原理によりもっともよく説明できるとされており、判例法理における過失相殺の位置付けも変容しつつある、といえよう=百選90解説3B>

 

最判昭和51年3月25日  被害者側の過失 (百選91)

事案:夫の車に同乗していた妻が、夫が急ブレーキをした際、大型トラックに衝突され傷害を負う。

判旨:民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者側の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから、右被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。

したがって、…右夫婦の婚姻関係が既に破綻に瀕しているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌できる…。このように解するときは、加害者がいったん被害者である妻に対して全損害を賠償した後、夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係をも一挙に解決し、紛争を一回で処理することができるという合理性もある。

 

分析:本判決の理由は、@公平の理念、A求償関係の一挙解決

幼稚園の保母さん:被害者側の過失の理論は適用されない。身分上、社会生活上一体をなすとみられない。

コメント:共同不法行為における連帯責任を分割責任とする効果がある(内田U参照)。これにより、夫の無資力については、妻がその危険を負担することとなる。ただ、夫婦間では、その請求がなされることはまれと思われるので、不都合はあまりない。

 

最判平成8年10月29日 過失相殺と身体的特徴の斟酌 (百選92 講義133)

判旨:被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患にあたらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。

けだし、…極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有するものが、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。

 

判例講義解説:@疾患の場合になぜ考慮してよいのかの理由が不明。A疾患と身体的特徴の区別が不明。@については、領域原理(自己の権利領域内の特別の損害危険に対する保証責任)で説明するのが、もっとも判例法理を説明しやすい。Aについては、区別する必要はない。要は、自己の権利領域内の特別の損害危険といえるかどうかが大事なのである。

 

障害によりバランスを崩しやすい(平15論試):疾患にあたるのか微妙。ただ、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められる場合には、少なくともあたる。

 

最判昭和431115日 企業損害 百選93

かかる事実関係のもとでは、相当因果関係の存することを認め、請求を認容しうべきものとした判断は正当である。

 

最判平成8年3月26日 浮気された妻から浮気相手の女性に対する損害賠償請求(百94)

判旨:不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができる場合であって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえない

 

浮気相手に対する妻からの損害賠償請求の可否:婚姻関係の維持につとめるべき夫が、婚姻の破綻についての責任を負えば充分であり、夫が自由意志で浮気をしている場合には、相手方たる第三者の責任を問うべきでないとする有力反対説がある。

しかし、判例は、婚姻関係が実質的に破綻していたのでない限り、広く損害賠償請求を認める。婚姻関係を厚く保護しようという姿勢がうかがえる。

 

子供から親の浮気相手への損害賠償請求の可否:浮気しても、子供の監護、教育はできるのだから、原則として相当因果関係がなく、不法行為は成立しない。(「女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなどの特段の事情がない限り」)<最判昭和54年3月20日>

 

 

大判大正15年2月16日 生命侵害による財産上の利益の損害賠償請求権の相続(百95 講125)

判旨:他人に対し即死を引き起こすべき傷害を加えたる場合にあっても、その傷害は被害者が通常生存しうべき期間に獲得し得べかりし財産上の利益享受の途を途絶し、損害を生ぜしめるものなれば、右障害の瞬時において、被害者に之が賠償請求権は発生し、其の相続人は当該権利を承継するものと解するを相当とする。

判例講義解説:傷害と死亡との間に観念上の時間の間隔を認め、働けないことによる逸失利益についても損害賠償請求権は発生し、相続されるとした。

判例批判:@「笑う相続人」との批判。(「笑う加害者」がでるよりいい(内田民法U))

A死亡による損害が権利能力のない死者に帰属することはありえない。判例理論では「死前に死あり、死後に死あり」でおかしい。

(適切には「働けないことによる逸失利益」などと表現すべきであり、これは、死ぬ前に発生しているから批判はあたらない。「死亡による損害」という表現が不適切なだけ=私見)

判例擁護:@損害額の算定基準の簡明性、A賠償額が高額化する、B損害額の立証の容易、C権利者の範囲の明確

 

最判昭和42年11月1日  慰謝料請求権と相続 (百選96 講義126)

判旨:(1)ある者が財産以外の損害を被った場合には、その者は、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰謝料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。

(2)そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰謝料請求権を相続するものと解するのが相当である。

 

けだし、損害賠償請求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、別異の取扱いをしていないし<(1)の理由>、

@慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、A民法七一一条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権とは別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではないからである<(2)の理由>。

 

判例講義解説:従来の判例は、意思表示により、一身専属的な権利(896条但)でなくなり、相続の対象となるとしていた(大判明治43年10月3日)。しかし、本判決で、財産上の損害賠償請求権との同質性を強調し、判例変更をするにいたった。

 

最判昭和48年11月16日 民法724条の消滅時効の起算点  (百選98 講義145)

事案:白系ロシア人、逮捕中に拷問にあった。拷問による損害賠償を請求。

判旨:「加害者を知りたる時」とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑みれば、加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当である。

被害者が不法行為の当事加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する損害賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況がやみ、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき初めて『被害者を知りたるとき』にあたるものというべきである。

判例講義解説

166条について、「権利の性質上、権利の行使が現実に期待できるものであること」が必要とされる(最判昭和45年7月15日 供託物の返還請求権についての判例)。(そのように解するのが加害者と被害者の公平の観点から相当=私見)

 

このように、権利の性質上、損害賠償請求権の行使を合理的に期待しうるかという観点から判断されるという大枠の中で、加害者の氏名や住所の判明は、重要だが、絶対の要件とはいえず、上記判断枠組みの中で考慮される一要素に過ぎない。

 

(そして、『加害者を知りたるとき』の要件も、このような、大枠と、調和的に解されなければならない=私見)。

 

最判平成10年6月12日 除斥期間と158条の法意 (百選99 講義146)

事案:予防接種で、けいれんがとまらず、直立歩行もできない状態となった。国賠訴訟。

判旨(1)724条後段は、..除斥期間を定めたもの

(2)(除斥期間については)裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により右請求権が消滅したものと判断すべきであるから、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるとの主張は、主張自体失当である(最判平成元年12月21日)。

(3)724条を字義どおりに解すれば、…その心身喪失の常況が当該不法行為に起因する場合であっても、被害者は、およそ権利行使が不可能であるのに、単に20年が経過したということのみをもって一切の権利行使が許されないこととなる反面、心神喪失の原因を与えた加害者は、20年の経過によって損害賠償義務を免れる結果となり、著しく正義・公平の理念に反する。そうすると、少なくとも右のような場合に合っては、当該被害者を保護する必要があることは、前記時効の場合と同様であり、その限度で民法724条後段の効果を制限することも条理にかなうというべきである。

したがって、不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6ヶ月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職したものがその時から6ヶ月内に右損害解消請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。

 

判例講義解説(金山)

除斥期間とは、「被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの」(最判平成元年12月21日)

 

除斥期間と時効の違いは、

@当事者の援用を必要としない、除斥期間の利益を当事者が放棄しても意味がない、除斥期間の主張が権利濫用となったり信義則違反となったりすることはない(公益的=法律関係の長期の不確定を防ぐ)

A中断や停止等がなく期間の経過という事実のみにより画一的に被害者の救済を拒む(画一的

 

本判決は、Aの例外を認めるもの。ただ、判例は、例外の要件としての「特段の事情」を限定している。

では、Aの例外をどこまでひろげうるのか。判例の射程として、「心神喪失のない場合にあっても、時効の停止の類推適用がありうるのか、また債務者の承認による除斥期間の中断の可能性はないのか」が問題となる。

コメント

この点、平成元年の判決を前提とする限りは、全面的な類推適用は否定されるものと考えられ、著しく正義・公平に反する場合に類推適用は限られよう。ただ、著しく正義・公平に反するのであれば、心神喪失の場合に限らず、除斥期間の例外は認められてよいということに、本判決からはなりそうである。

判例講義解説における判例批判

平成元年判決自体を見直す必要がある。

まず、長期除斥期間概念を、放逐すべきである。(ここに、長期除斥期間とは、724条後段のように、起草者が時効期間と考え、<明記しているにもかかわらず>、判例によって除斥期間とされるものである。)

次に、除斥期間についてあまり時効との区別を絶対視すべきでない。(除斥期間もさまざま)

 

最判昭和38115日 請求権競合 (百選100 講義147

事案:運送取扱人が、過失により、運送物を間違った者に引き渡してしまい、取り戻せなくなった。主位請求は、債務不履行責任。複位請求は、不法行為責任。主位請求は、商法589条・566条により一年の短期消滅時効にかかっている。

 

争点:契約当事者間では、不法行為責任についての規定は、排除されるか。

 

裁判所の判断..債務不履行に基づく賠償請求権と不法行為に基づく賠償請求権との競合を認めうることは、大審院判例の趣旨とするとおりであって、..

 

分析(判例講義解説):後に最高裁は、本判決が、単純な競合説に立ったものだと明言している(最判昭和44・10・17)。

ただ、最高裁は、約款による運送契約上の責任限度額の定めは不法行為責任にも適用される、とている(最判平成10・4・30)。

この平成10年判例により、「時効については徹底して請求権競合論を、そして人身の保護が問題にならない限りの責任の成立や範囲については法条競合論を」と当判例を修正して理解する者もでてきている(金山直樹)。

私見:単純な請求権競合論が妥当。(被害者保護に資するから)。金山説はちょっといいすぎ。

ただ、もう片方の規定の趣旨を没却しないような解釈がなされなければいけないので、必要最低限の調整は必要と考える。