重点講義 高橋宏志 by R.N
このノートの目的は、「重点講義」を題材として考えることにあるのであり、高橋重点講義を再現することにあるものではない。特に、旧訴訟物論(実体法説)・判例の立場からその問題意識にどのように対応し、反論することができるのかを検討することを目的としている。従って、意図的に意訳しているところもあるし、旧訴訟物論から問題とならないとおもわれる部分について思い切って省略しているところもある。
なお、判例の判旨を重点講義よりもかなり長めに引用してある。これにより、やや流れが悪くなっている。
第1講 民事訴訟法の目的
棚上げ論
第2講 訴訟物
一、訴訟物論争
訴訟物とは、本案判決の主文で判断すべき事項の最小基本単位である。
従来は、請求の併合(136条)の有無、訴えの変更の有無、二重起訴の禁止にふれるか、既判力の客体面での範囲の問題すべてが訴訟物によって定まる、訴訟物はそのような基本的概念だとされていた。
新訴訟物論(新説)が妥当。同一当事者間での同一家屋の明渡しをめぐる紛争というものは社会常識的には一個の紛争と考えられるが、これを法的にも一回の訴訟で解決するのが訴訟制度としては望ましい。
旧訴訟物論(旧説)を理論的につきつめれば、紛争の蒸し返し、審理の重複があることは否定すべくもない。
※訴訟物は本案審理の対象であり、訴訟の基軸であり、簡単に撤回を認めたり裁判所の専権を安易に認めてはならないものである。当事者は訴訟物を特定する義務があり、裁判所は当事者の申立てに拘束される。
一方、攻撃防御方法は、本案審理の直接の対象ではなく、既判力も生じない。よって、当事者が順序を指定したとしても裁判所はこれに拘束されず基本的にどれから審理してもよいし、また、当事者は攻撃防御方法については基本的に自由に撤回してよい(33頁)。
二、訴訟物論争の影響
1釈明の増大(旧説からも釈明の範囲が広がった)
2訴訟類型の差の認識
(1)訴訟類型の差の認識がされるようになった。例えば、給付の訴えや形成の訴えでは、いわばせっぱつまった状況での紛争解決であるから、請求権の実体法上の属性よりも結果の方を重視するのである。(実体法上の属性も大事なら中間確認の訴えを提起すればよい)
(2)また、訴訟物論争を通じ、旧説からも訴訟物を柔軟に考える考え方がでてきた(-離婚訴訟など。<民法770条>)
3選択的併合
選択的併合は、新説からの批判をかわすために、旧説が用意した理論である。
しかし、この考え方は裁判所に専権を与えすぎ大いに問題であり、処分権主義という大原則に抵触しかねない。
訴訟物は本案審理の対象であり、訴訟の基軸であり、簡単に撤回を認めたり裁判所の専権を安易に認めてはならないものである。一方、攻撃防御方法は、基本的に自由に撤回させてよく、審理の順序は効率性の点から裁判所の専権に委ねてよいとされる。これは、攻撃防御方法が直接の審理対象ではなくその判断には拘束力が生じないとされるからである。
旧説は、この攻撃防御方法の論理を訴訟物に及ぼすという背理を犯しているのである(33頁)
4法的評価の再施
新説では実体法上の権利の属性について定められないので、後で法的評価の再施をすることになる。
しかし、これで何ら問題ない。(旧説でも、請求権競合の事例で、選択的併合としたときに、一方が認容された後で、もう一つの属性もあわせもっていたと判断して法的評価の再施を行う場合がある。たとえば、口頭弁論終結後の承継人にあたるかについて物権的返還請求権を背後に控えていたことを執行文付与に対する異議の訴えの中で認定した仙台高裁平成7年10月31日判決<平成8年度重版民訴3>は法的評価の再施を行っている=隆補足)
5実体法理論の進展
請求権競合の事例を実体法の段階でも調整しようと、実体法において議論が進展した。
6実体法の進展と新説への批判(41頁)
新説は、実体法規範ごとの内容の差異を無視しすぎていると批判されることがある。しかし、新説は、訴訟の類型ごとに実体法規範ごとの内容の差異が重要かを区別し(例えば、給付訴訟では給付の額が最も重視されるのであり、法的属性は重視されないという類型である<30頁>)、法的属性が当該訴訟で重要でないならば、当該訴訟においては問題とせずともよく、後訴で問題となったときに改めて法的評価の再試を行えばよいという議論なのである。つまり、実体法規範の差異にむしろ柔軟にきめ細かく対応するのが新訴訟物説なのである*。(42頁)
*旧説では、後でどの法的属性が問題となるかもわからないのに、前訴でその法的属性まで決まってしまうということになりかねない。そういう意味では、旧説はかえって、実体法規範の差異に柔軟に対応できない可能性を持つ。
三、占有権・本権と訴訟物 ?新説からは説明しにくいが、訴訟物を一つとする説明を行っている。
四、手形債権・原因債権と訴訟物 ?新説からは説明しにくいが、訴訟物を一つとする説明を行っている。
五、訴訟物論の動き
訴訟物論争が深まるにつれ、それぞれの問題領域における訴訟物概念の効用が相対化し、訴訟物が訴訟を統一的に規律するという考え方がゆらぐこととなった。なお、近時訴訟物を訴訟の展開によって動態的に把握する議論も生じているが、訴訟物概念を変えずとも、信義則や争点効でも十分に説明可能なのであり、高橋は、不必要な議論として動態的な訴訟物論の考え方に批判的である(58頁注21の最終行)
六 私見
基本的には、旧説が妥当と考える。
なぜなら、旧説の方が当事者のニーズによりきめこまやかに対応できると考えるからである。
新説は、紛争の一回的解決を重視するが、紛争を一回的に解決しようとするとかえって余計な手間ひまがかかりかねない。<失権効が大きくなりすぎれば、訴訟がさらに重いものとなりかねない>)。当事者が双方とも一回的解決を望んでいない場合にまで当事者にそれを強制する点で、新説には賛成できない。
第3講 訴え
二、訴えの分類
1、単一の訴えと併合の訴え
単一の訴えとは、一人の原告が一人の被告に対して一つの請求をなすだけの訴えをいう。
併合の訴えとは、単一の訴えが併合されたものをいう。
2、独立の訴えと訴訟内の訴え
独立の訴えとは、他の訴訟手続きと無関係に新しく開始される訴えをいう。
訴訟内の訴えとは、既に開始されている訴訟手続きの中でそれとの併合審理を求める訴えをいう。
後者には、訴えの変更(143条)、中間確認の訴え(145条)、反訴(146条)、独立当事者参加(47条)等がある。
3、給付の訴え・確認の訴え・形成の訴え
給付の訴えとは、被告の作為または不作為を求める訴えをいう。
確認の訴えとは、権利関係・法律関係の確認を求めるという形の訴えをいう。
積極的確認の訴えと消極的確認の訴えがあるが、判決効の関係では、既判力しかない点で同じである。ただ、金銭債務不存在確認の訴えは、金銭支払いの給付訴訟の反対形相であり、債務者から債権者に対する提訴強制機能があり特別の考察を必要とする(63頁最終行)
確認判決には、強制執行は対応しておらず、その面だけ実際上の紛争解決・権利実現の力は弱い。しかし、他面で、確認判決は法律関係の根本をおさえるものであり、観念的紛争解決の幅が広いという利点もある。
形成の訴えとは、判決によって権利関係・法律関係の変動を生じさせる類型の訴えをいう。
(1)形成の訴えは、雑多なものを含み、分類のための分類という要素を持つ。
(2)そのメルクマールは、「形成判決の確定のない限り当該法律関係の変動を何人も主張することができない」という点に求めることに落ち着いている。(対世効を伴うことが多いがこの点は本質的でない- 66頁11行目)
必ず形成の訴えを経なければならないと法律が規定するのは、法律関係の変動の明確さを立法者が求めたからである。他面、訴えを経なければならないのであるから、機動的に動くことはできないという代償を払っている。この代償を払ってまで法律関係が明確であることを強く必要とする訴訟が形成訴訟とされるのである。
婚姻・養子縁組の無効確認の訴え・株主総会無効確認の訴えについては、(無効であることが一定程度明確である場合なので、代償を払ってまで法律関係の明確を要求しなければならないほどの必要性は認められず)、前提問題としての主張を許す方が合理的であるから、形成の訴えでないとしてよい。
※もっとも、法律関係の明確性の要求は、形成の訴えに準じそれなりに強いのであり、判決効(商法252条の対世効)などの面において、形成の訴えとされる決議取消訴訟と同様に扱われている。
つまり、形成の訴えかどうかという分類は絶対的な分類ではなく、このような分類にこだわるのは生産的でない(67頁)。
詐害行為取消の訴え
高橋は、形成の訴えではないとする。しかし、判例は形成の訴えとする。形成の訴えとした上で、不都合を修正する(百選U158)
総会決議取消の訴え、決議無効確認の訴え、決議不存在確認の訴えについて、決議の効力の否定宣言を求める訴えとして訴訟物は一つとする有力説
区別があいまいで、その曖昧さのため原告が訴え選択において間違える危険を負わされるのを避けることができることがメリット。
※判例は、訴訟物を異なることを前提とした上で、同じ争点(瑕疵)なら、訴えの変更を訴訟内で認めるという形で原告を救済する。
最判昭和54年11月16日:
株主総会決議無効確認の訴えの決議無効原因として主張された瑕疵が決議取消原因に該当し、しかも、右訴えが決議取消訴訟の出訴期間内に提起されている場合には、決議取消の主張が出訴期間経過後にされたとしても、右決議取消の訴えは出訴期間の関係では決議無効確認の訴え提起時に提起されたのと同様に扱うのが相当である。
一方、瑕疵が異なるなら、同じ訴訟類型でも期間経過後の取消事由の追加はできないとする。
最判昭和51年12月24日(百選T77)
株主総会決議取消の訴えにおいて、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは、許されない。
(3)形成の訴えと他の類型の訴えとの類型との壁は厚くない(67頁)=(1)のくりかえし。
再審の訴え
争いあるが、形成の訴えとみるべきではない(68頁)。
(4)形成判決には形成力があるだけであり既判力はないという説もあったが、形成要件が存在したという判断に不可争性を与えることが不当利得・損害賠償請求の防止のために必要であり、既判力を肯定してよい。
この三分類は、この三種で全ての訴えをカバーするという包括的な分類ではない。
確認訴訟原型論<兼子>があるが、@三種の訴えの類型としての差異を軽視する危険を持ち、Aまた歴史的にも現実的にも給付の訴えが中心であることに目を覆うと三日月に批判され支持を失っている。(高橋的にはどちらが正当かにつき無関心)
三、形式的形成訴訟
1、形式的形成訴訟
要件事実が具体的に規律されておらず、どのような結論の判決を下すかが裁判官の健全な裁量に任されている形成の訴えをいう。
境界確定の訴え、共有物分割の訴え(民法258条)、父を定める訴え(民法773条)などがこれにあたる。これらは、対審・公開・判決という形式面では訴訟であるが、要件事実が具体的に存在しないのであるから、その実質においては、事実に法規を適用するという司法作用の性格が薄く、実質は非訟事件だと論じられる。
2、境界確定の訴え
(1)判例理論
判例によると、公法上の境界線を定める訴えとされる。
そして、
@原告は特定の境界線の存在を主張する必要がなく、
A仮に境界線を定めたとしても裁判所はこれに拘束されず(大判大正12年6月2日)246条も304条も適用されない(最判昭和38年10月15日)、
B境界についての当事者の合意も裁判所を拘束しない(最判昭和31年12月28日)、
C裁判所は境界線が証明されない場合にも証明責任を適用せず、必ず裁量でどこかに境界線を引かねばならない。
D境界を確定した判決には対世効がある。
E取得時効については審理しない。
このように通説・判例は、境界確定の訴えを所有権とは原則として切り離し関係しないものとする。
(もっとも、当事者適格は、隣接する土地の所有者同士が当事者適格を持つとし、所有権と関連させる)
(2)判例批判
訴訟当事者の実際の感覚に合致しない。所有権範囲確認の訴えと二つが必要になると、紛争解決として非効率。
(3)判例の再評価
所有権の争いに証明責任を適用するのは不都合(境界線の証明は困難なので訴えた方が必ず負けるということになりかねない)。かといって、時効取得についてまで証明責任が適用されないとするわけにはいかない(79頁 通常の時効取得の場合とのバランス)。
このような矛盾をうまく調整できるのが、判例の二元論である。
(4)高橋説
二元論でいきつつ、修正は最小限にとどめるべき。その結果、判例と異なり246条も304条も適用してよいとする(81頁)。-実務は必ず線を引かせ、その係争部分で境界線を引いている(注31)。
3 共有物分割の訴え
(A説)共有関係の廃止と分割の実施という側面がある。前者については、処分権主義が妥当し、後者についてのみ非訟性が肯定されるべきである(86頁)。<奈良・高橋>
コメント:当事者の意思が尊重されなければならないのはもちろんである。
ただ、全面的価格賠償なども考慮に入れるとき、果たして、物の一部のみの共有関係を残したいという原告の意思に拘束力を認めてよいのか疑問が残るところであり、奈良説には賛成できない。
(B説)全面的に非訟である。もっとも、当事者双方の意思が反映されるべきことはいうまでもない。各共有者の分割方法についての希望も充分に考慮に入れた上で、分割がされるべきである。当事者双方の意思を無視した分割は、裁判所の裁量権を逸脱したものとして、違法となりうる。
最判平成8年10月31日 共有物分割の訴えの法的性質<全面的価格賠償の事例>
民法258条2項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。…
第4講 一部請求
一、一部請求の可否
1問題の状況 -残部請求の可否、つまり判決効が本当は問題
2全面的な一部請求を肯定する説 -重複審理、応訴の煩があり不当。実体法上分割行使が可能だからいいというが、実体法上の行使の場合には重複審理や応訴の煩はない。
3全面的な一部請求を否定する説
(1)一部だと明示されていれば残部請求を許す- 一部しか訴訟物となっていないから。
(2)明示されれば一部しか訴訟物とならないとしつつ、(1)説を修正し、勝てば残部請求も許すが、請求棄却又は一部棄却のときは信義則上残部請求を許さない。もっとも一部と残部で利益状況が違う場合(とりあえず弁護士費用だけ請求した場合)などには、前訴が請求棄却でも、残部の請求は許される-条解611頁=注10、井上正三、最判平成10年6月12日)
※三日月説は意味不明なので高橋は紹介しているがここでは省略する。
(3)全面否定説(高橋・新堂)
明示すると否とに限らず常に債権全部が訴訟物となる。残部請求は常に許されない。
理由:@被告への単なる警告だけで被告の利益が守られたとしてよいのか。
A一部と明示しても、裁判所の重複審理の非効率・不経済が生じることにはかわりがない。
B前訴の中での請求の拡張は、原告にとって一挙手一投足に近い。
(4)伊藤眞説
明示すると否とに限らず、債権全体が訴訟物となる。一部請求は、執行の額の範囲を定めるという範囲で意味がある。
※伊藤説では、債権全体の額を前訴請求で確定しておかねばならないということになるが、これでは前訴は重いものになり、一部請求訴訟であることの意味は希薄となろう。全部が訴訟物となるとしつつ、前訴では債権の存否及び申立て事項の範囲内で額が存在するかだけを審理すればよいとする新堂説の方が合理的である(注14)。
最判平成10年6月12日 一個の金銭債権の一部請求で敗訴した場合の残部請求の可否
一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成6年11月22日判決参照)、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。
以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。
二、注意すべき事項
1 訴訟物の捉えかた
債権全体を訴訟物とする説からは、判決主文の判断と訴訟物についての判断がずれてくる。
114条との整合性でやや問題があるが、そういうものとして理解しておけば足りる。
2 後発後遺症と一部請求
最初の訴えでは残部というものを意識していない点で、通常の一部請求の場合と比べ利益状況はかなり異なる。明示というものはありえないし、反訴の機会もない。
このような場合はむしろ、一部請求とは別に独自に論じられるべきものである。(期待可能性の理論で処理するのが妥当)
三 一部請求と時効中断
明示の一部請求の場合には、一部のみについて時効が中断される(最判34年2月20日)
残部は、訴訟物となっていない以上、その部分には既判力が生じず、時効も中断されないというのである。